研究課題/領域番号 |
24658174
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
萩原 篤志 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (50208419)
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キーワード | ワムシ / 両性生殖 / 遺伝様式 / 個体群動態 / 国際情報交換(韓国) |
研究概要 |
シオミズツボワムシでは親個体がおかれた環境によって、次世代以降の両性生殖誘導の発現頻度が変化する。この遺伝様式を明らかにすることが本研究の目的である。今年度は二つの研究を行い、成果を得た。 1)耐久卵から孵化した個体に短時間の飢餓処理を行った場合、次世代以降の両性生殖誘導率の上昇や生涯産仔数の減少、寿命の長期化が起こるが、何世代に亘って遺伝するかを求めた。その結果、飢餓処理による両性生殖誘導率の上昇は38世代目まで遺伝することが確認された。生涯産仔数については21世代目まで対照区と飢餓処理区で有意差がなかった。しかし、22世代目より飢餓処理区の生涯産仔数が有意に減少した。寿命の長期化は最初の3世代のみ観察された。また、両性生殖誘導率と生涯産仔数は、約13世代を周期とする増加と減少を繰り返し、この現象は80世代以上継続することが明らかになった。 2)染色体DNAのメチル化による次世代への遺伝様式の変化を解析するためには、損傷の少ない全ゲノムDNAが必要である。シオミズツボワムシの全ゲノムDNAを他の無脊椎動物で確立されている既存の方法で精製した結果、高い頻度でDNAが断片化することが明らかとなった。この原因は不明であるが、DNA分解酵素群の活性が高いことが要因であると推測し、DNase活性を阻害するEDTAの濃度、プロテイナーゼK 処理の温度と時間、精製に用いるシオミズツボワムシの個体数を検討した。その結果、湿重量が約100 mgのシオミズツボワムシを100 mM EDTAを含むプロテイナーゼK 緩衝液に懸濁し、50℃で4~6時間の酵素処理を行うことで損傷の少ないゲノムDNAが精製可能であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
親の獲得した表現型が単性生殖により伝播する世代が38世代にまで達することをつきとめたほか、両性生殖誘導率と生涯産仔数は、約13世代を周期とする増加と減少を繰り返し、この現象が80世代以上続くという、全く新しい知見を得ることができた。以上より全体として、順調に進んでいると判断した。全ゲノムDNAの精製時に高い頻度で断片化が起こったことにより、これへの対策を行い、損傷の少ないゲノムDNAを精製することができた。 以上、個体別培養実験が予想外の長期研究(9ヶ月)となったが、次年度よりDNAメチル化について研究を開始する準備が整った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に確立した方法で精製した損傷の少ない全ゲノムDNAを用い、制限酵素法およびHPLCを用いて両性生殖誘導の発現頻度が変化したシオミズツボワムシDNAのメチル頻度の解析を試みる。また、他の無脊椎動物では、脊椎動物と比較してゲノムDNAのメチル化頻度が低いことが近年報告されており、前述の方法では解析が困難である可能性がある。そこで、研究代表者のグループがこれまでに構築したシオミズツボワムシESTデータベースよりDNAメチル化関連酵素遺伝子群を選別し、これら遺伝子群の全遺伝子配列の決定および機能を推定し、両性生殖誘導の発現頻度が変化したシオミズツボワムシのDNAメチル化関連酵素遺伝子群の発現量を解析することで、これらの現象とDNAメチル化の関連を明らかにする。
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