研究課題/領域番号 |
24658178
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研究機関 | 独立行政法人水産総合研究センター |
研究代表者 |
外丸 裕司 独立行政法人水産総合研究センター, 瀬戸内海区水産研究所 環境保全研究センター, 主任研究員 (10416042)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 珪藻 / バクテリア / ウイルス / 生残 / Nautella sp. / Sulfitobacter sp. / Polaribacter sp. |
研究概要 |
近年,海洋の重要一次生産者である珪藻類に感染して溶藻を引き起こすウイルスの発見が相次いでいる。これらのウイルスは,無菌のフラスコ内では数日以内に珪藻個体群のほぼ完全な崩壊を引き起こす。現場調査においてもウイルスは宿主のブルームに伴い顕著な増加を示すことから,珪藻個体群の挙動に何らかの影響を与えていることが示唆されている。ところが現場の珪藻はウイルス存在下でも,そのブルーム個体群を維持している場合がある。このような背景のもと申請者は,バクテリア存在下で海産浮遊性珪藻Chaetoceros tenuissimusがウイルスCtenRNAV接種後に効率良く生残する現象を発見した。本研究ではウイルス接種後の珪藻宿主生残におよぼすバクテリアの影響を評価することを目的とした。 珪藻C. tenuissimus 2-10株を用いたウイルス接種試験を,バクテリア群集有無の条件下で行った。さらにバクテリアの群集構造を解析するとともに、単離したバクテリア,珪藻株ならびにウイルスの3者培養を行った。 本種珪藻にウイルスを接種したところ,無菌培養区では個体群の完全崩壊が確認された。バクテリア群集存在下でも多くの珪藻細胞は死滅したと思われたが,一部が生残し,新しい培養液中で再増殖が観察された。培養液中で優占していたバクテリアはNautella sp.であったが,分離されたバクテリアはSulfitobacter sp.が優占し,他にNautella sp.とPolaribacter sp.が分離された。いずれの分離株も珪藻のウイルス抵抗性に関与する可能性が,培養実験により確認された。以上の結果から,海洋環境中で珪藻個体群がウイルス感染から逃れて生残する戦略の一つに,バクテリアによる何らかの影響が存在するものと推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バクテリアの存在下で、珪藻がウイルス感染後に生残する様子を厳密な生理学実験で明らかにすることに成功した。また当該現象に関与すると思われるバクテリアの種組成をPCRとシークエンシングによって明らかにするとともに、バクテリアの分離株を作製することに成功した。本年度に得られた研究成果を、日本水産学会で発表した。以上のことから、研究は概ね順調に進展したと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
ウイルス感染後の珪藻の生残に関与するバクテリアの分離株(単離株)を作製し、塩基配列を明らかにすることで、当該種の特異的検出技術構築のための基盤作りを行う。また、抗ウイルス抗体ならびにウイルスゲノム鎖特異的分子プローブの作製を行い、ウイルス感染がブロックされる仕組みの解明を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
珪藻培養,バクテリア培養用のプレート類、ならびに塩基配列解析,タンパク質解析,免疫学的実験など、分子生物学実験用の試薬やディスポーザブルのプラスチック器具を重点的に購入する予定。また、研究の効率的な推進のため、集中実験期間中には、実験補助のための臨時職員を雇用することを予定している。国内の成果発表の場としては、日本水産学会、日本プランクトン学会等を予定している。
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