研究課題/領域番号 |
24658179
|
研究機関 | 独立行政法人水産総合研究センター |
研究代表者 |
岡崎 雄二 独立行政法人水産総合研究センター, 東北区水産研究所, 主任研究員 (90392901)
|
キーワード | イワシ類仔稚魚 / 食性 / 安定同位体比 / 餌料環境 |
研究概要 |
昨年度に引き続き混合域で採集されたマイワシ・カタクチイワシ仔稚魚の食性について分析を行い、今年度は1970年代、1980年代前半および1990年代の標本について解析を進めた。その結果、1970年代のマイワシ・カタクチイワシ仔稚魚はカラヌス目とポエキロストム目のカイアシ類を同程度摂餌しており、両者の全体に占める割合(個体数)は約90%であった。一方、1980年代前半のマイワシ・カタクチイワシ仔稚魚はカラヌス目カイアシ類を多く摂餌しており、その割合は80%以上であった。さらに1990年代のマイワシ・カタクチイワシ仔稚魚は、1970年代と同様にカラヌス目とポエキロストム目のカイアシ類を多く摂餌していた。またマイワシとカタクチイワシ仔稚魚の食性は年代毎にほぼ一致しており、食性の違いは認められなかった。 以上の結果を昨年度の成果と合わせて考察すると、マイワシ資源量の多かった1980年代前半やマイワシ加入量が良好であった2010年級のマイワシ稚魚は、Paracalauns属などのカラヌス目カイアシ類を多く摂餌していることが分かってきた。一方、マイワシ資源量の低水準期や減少期であった1970年代、1990年代および2000年代に採集されたマイワシ稚魚は、カラヌス目も摂餌していたがその割合は低く、Oncaea属やCorycaeus属などのポエキロストム目のカイアシ類を多く摂餌する傾向にあった。このように加入量決定の場とされている混合域においてマイワシ仔稚魚の食性が変化していることが明らかになってきており、今後はマイワシ資源の加入量が激減した1990年前後の解析を進め、イワシ類仔稚魚の食性の経年変動の全貌を明らかにする予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、所属研究所に保管しているマイワシ・カタクチイワシ仔稚魚のホルマリン浸漬標本について消化管内容物の分析を進め、年代によって食性が異なる事など興味深い成果が得られてきた。この成果の一部については、6月に米国・マイアミで開催された国際学会において発表を行った。また、固定・保存液によるイワシ類仔魚の安定同位体比への影響評価については国内学会で発表し、ホルマリンやエタノール標本についても脱脂をした方が良い事、δ15N値に対する両保存液の影響はδ15Nの1栄養段階の濃縮率(3.3‰)より十分低いため液浸標本でも解析に使用出来る事、δ13C値に対するホルマリン保存の影響はδ13Cの1栄養段階の濃縮率(0~1.5‰程度)より大きいためホルマリン標本の使用には注意が必要である事などを明らかにした。これらの成果より、今年度開始した固定標本を用いたδ15N窒素安定同位体比分析の妥当性が検証する事ができた。以上のことから研究は概ね順調に進められた。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度であるH26年度は、現在分析を進めているイワシ類仔稚魚のδ15N窒素安定同位体比の解析を進めると同時に食性データの解析を行う。また餌生物δ15Nのベース値の経年変動性と平均値を明らかにするため、主要な餌となる小型カイアシ類のδ15N窒素安定同位体比の分析を進める。以上のデータに、研究協力者の協力を得ながら解析を進めている環境中の餌生物の経年変化についての結果を合わせて解析する。 最終的に仔稚魚の各分析データは、マイワシ・カタクチイワシの変態期仔魚と稚魚に分けさらに1970年代(マイワシ加入量増加期)、1980年代(マイワシ資源量増大期)、1980年代後半~1990年代前半(マイワシ加入量減少期)、1990年代(カタクチイワシ資源量増大期)の4つの年代に分けて解析を行う。これにより、種類毎のステージ別の餌生物の種類、サイズ組成ならびにδ15Nの各年代のデータが得られる。これに上記した環境中の動物プランクトンデータとあわせて解析することで、餌環境の経年変化が仔稚魚の食性・栄養段階の変化にどの程度関連するのか明らかにして、経年的な食性や餌環境の変化が加入量変動に及ぼす影響について考察する。
|