1970年代のマイワシ・カタクチイワシ仔稚魚はカラヌス目とポエキロストム目のカイアシ類を主に摂餌しており、両者の全体に占める割合(個体数)は約90%であった。また、1980~1987年のマイワシ・カタクチイワシ仔稚魚はカラヌス目カイアシ類を多く摂餌しており、その多くはParacalanus属であった。一方、マイワシ資源の加入量が激減した1990年前後(1988~1991年)では、マイワシ稚魚はカラヌス目カイアシ類の中でも特にCalanus属を多く摂餌していた。1992年以降のマイワシ・カタクチイワシ仔稚魚は、1970年代と同様にカラヌス目とポエキロストム目のカイアシ類を多く摂餌していたが、出現する餌種は増加する傾向にあった。これを裏付けるように消化管内容物の多様性指数は、マイワシ・カタクチイワシ仔稚魚ともに1990年代に増加していた。これらの食性解析の結果に対して窒素安定同位体比は年変動が大きいものの、カタクチイワシ稚魚を除いて年代が進むにつれて減少傾向にあり1970年代から1990年代にかけて2‰近く減少していた。このように窒素安定同位体比の変化は、イワシ類の仔稚魚の食性変化や加入量変動と必ずしも一致していなかった。 本研究ではこれまで不明であった過去の混合水域におけるイワシ類仔稚魚の食性の経年変化を明らかにできた。特にマイワシ資源の加入量が激減した1990年前後を境にイワシ類仔稚魚の食性が変化していたことは注目される。また、イワシ類仔稚魚の窒素安定同位体比は消化管内容物のようなドラスティックな変化はなかったが、経年的な減少傾向を示していた。減少要因は不明であるが窒素起源や一次生産者の長期的な変化などの反映の可能性も考えられ興味深い。
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