研究課題/領域番号 |
24658181
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
酒井 隆一 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (20265721)
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研究分担者 |
今田 千秋 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 教授 (90183011)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 海洋天然物 / 生合成 / 共生微生物 / ペプチド / 非リボゾーム型ペプチド合成酵素 / ポリケチド合成酵素 |
研究概要 |
DidemninB(DB)はカリブ海のホヤ(Trididemnum solidum)から単離された抗癌ペプチドである。本研究は2011年に千葉県館山湾の海砂から単離された細菌Tistrella mobilis(T株)がDBを生産することを受け、細菌のDB生合成遺伝子を見出すことを目的に計画された。しかし、DB生合成能を持つ T. mobilis株が紅海から単離され(K株)、ゲノム解析の結果からDBの生合成遺伝子が解明され、2012年3月に発表された。そこで本研究ではまず申請者が保有するT株のDB生合成遺伝子の解析を行うこと、そしてそれをホヤに含まれるDB生合成遺伝子と比較することを目標とした。まず、T. mobilis株の大量培養を行い、DB産生能を確認するとともに、プローブとして用いるDBを単離した。また、理研より提供を受けたT. mobilis(R株)についても分析を行ったところDBの産生が確認された。Didemininは非リボゾームペプチド合成酵素(NRPS)およびポリケチド合成酵素(PKS)の複合体により合成される。そこで、NRPSのジェネラルプライマーを用いて遺伝子の増幅を試みたが、増幅物は得られなかった。そこで、公表されたK株の生合成遺伝子の配列をベースにプライマーを作成し、PCRを行うことで相同な遺伝子を得ることとした。保存性の高いアデニルドメインの配列からプライマーを作成し、T株、R株よりK株と93~96%の相同性を持つ配列を同定した。これらの配列から、DBの生合成遺伝子クラスターの中間にあたるdidDに対応するプライマーを設計し、T. mobilisのフォスミドライブラリーからDBの生合成遺伝子を探索した。得られた300クローンから得られた生合成遺伝子クラスターのうち、生合成遺伝子didAのおわりからdidEのはじめまでのDBの生合成遺伝子を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は開始直前に海外研究者により本研究の目的の一つであるDidemnin生合成遺伝子が解明されたことを受け、目標を修正することを余儀なくされた。本研究ではまず公表された生合成遺伝子が保有株に含まれることを確認するとともに、ホヤでの生合成研究のプローブとなるプライマーを設計した。この計画は達成されホヤにおける生合成遺伝子の探索が可能になった。しかし、ホヤにおけるdidemninの主成分はdidemninA(DA)であるのに対し、バクテリアではDAの存在は全く確認できなかった。従ってホヤとバクテリアでは全く異なるdidemninの生合成経路があるのかもしれない。今回は理研から分与された、T. mobilis株にもDB生産を初めて確認したが、バクテリアによるDBの生合成は予想外に広く分布する可能性もある。これは今後確認すべき知見であるが、本研究の想定外の成果と言える。ホヤが生息するベリーズにおける採集は、現地政府との交渉の遅れから達成されていないが、25年度には可能になる予定であるので、ホヤを用いた研究を展開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、ホヤによるDidemninの生合成に関する知見を得ることに主眼をおきたい。まず、DidemninBをハプテンとしたタンパク質の複合体を作成し、ウサギに免疫する事で抗dideminin抗体を作製する。また、8月を目処にベリーズでの採集を予定しているので、採集したホヤの切片の顕微鏡観察を行うとともに、免疫組織化学的にdidemninの局在性を検討する。Didemnid科のホヤにはProchloronを始めとした共生ラン藻の存在が知られているが、T. solidumにおいても共生藍藻がdidemnin産生に関与しているかもしれない。そこで、ホヤの微生物叢の解析を行なうとともに、共生微生物を分離し、どの生物にdidemninが含まれるかをLCMSを用いて調べる予定である。また、共生微生物のゲノム解析も行いたい。Didemninはホヤから単離された代謝物であるが、その生合成遺伝子が世界各地で単離されたバクテリアに見出されたことは興味深い。DBは非常に強い生理活性を持つので、これまでの探索研究で見出されてこなかったのは不思議であるが、何らかの環境変化がバクテリアに潜在していたDB生合成遺伝子を活性化した可能性も考えられる。今回DB生合成遺伝子を得るプローブを開発したので、今後他の海洋細菌についてもその遺伝子の有無を調べたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
サンプルの採集は当初24年度に予定していたが、試料の生育を申請者自身が確認しているベリーズ政府との採集許可交渉が難航し、旅行計画を実行することができなかった。これは近年になって高くなってきた生物医薬資源保護の動きに連動するもので、研究計画時には予想できなかった。25年度に使用する予定の研究費は主にホヤの採集およびフィールド調査費用(旅費、サンプル輸送費、現地での実験、現地ダイビングサービス、同行プロダイバーへの謝金)に使用される。現在、ベリーズ政府には申請書および大学との覚書を送付し、許可を待っている状態である。順調に申請が受理されれば8月に調査を実施する予定である。もしベリーズ政府との交渉が成立しない見通しであればバハマやフロリダなどT.solidumの生育が文献上認められる地域も採集候補地として検討する。
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