研究課題/領域番号 |
24658182
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
渡部 終五 北里大学, 水産学部, 教授 (40111489)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ヤマトシジミ / トランスクリプトーム / メタボローム / 塩分 / 涸沼 / 涸沼川 / 潮汐 / cDNAライブラリー |
研究概要 |
ヤマトシジミは日本全域に生息しており、茨城県の主要漁場は涸沼川と涸沼からなる涸沼川水系である。涸沼川下流域は沿岸域からの距離が近いため、潮汐の影響を強く受けるのに対し、涸沼ではその距離が遠く影響が少ない。本研究では、満潮および干潮時の涸沼川および涸沼から採取したヤマトシジミの鰓および足筋を用いてメタボローム解析を行った。次に、上述の条件で採取した涸沼川産個体の鰓を対象にトランスクリプトーム解析した。 試料採取時の水質は、涸沼川の満潮時で塩分20.5 ‰、水温18.0 ℃、干潮時で4.0 ‰、21.7 ℃であった。一方、涸沼では涸沼川の満潮時、干潮時で差がなく、2.8 ‰、22.4 ℃であった。満潮時および干潮時の涸沼川および涸沼で採取したヤマトシジミから鰓および足筋を摘出し、CE-TOFMSで代謝産物の解析を行った。次に、涸沼川および涸沼の満潮時および干潮時の雌から鰓を採取し、mRNAを調製してcDNAライブラリーを作製し、次世代シークエンサを用いてトランスクリプトーム解析した。 メタボローム解析の結果、雌雄にかかわらず、鰓および足筋とも塩分上昇でGABAの含有量が増加した。また、雄は鰓での増加量が大きかったのに対し、雌は足筋の方で大きかった。さらに、満潮時に採取した試料の方が干潮時のものと比べてシステイン酸からタウリンへの代謝速度が速い傾向があった。この速度に雌雄差は認められなかったが、部位別では足筋の方が速かった。トランスクリプトーム解析では塩基配列解析およびアッセンブリにより得られた300 bp以上のコンティグに対し、E-value 10-10の条件下でblastx解析したところ、満潮時および干潮時の試料とも28 %の遺伝子が既知タンパク質と相同性を示した。とくに、干潮時の試料で筋小胞体カルシウム結合タンパク質遺伝子の発現量が大幅に増大していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
涸沼および涸沼川産のヤマトシジミを対象に代謝産物量および遺伝子発現量に及ぼす塩分の影響を調べた。メタボローム解析で代謝産物量を調べた結果、雌雄にかかわらず、鰓および足筋とも塩分上昇でGABAの含有量が増加した。また、雄は鰓での増加量が大きかったのに対し、雌は足筋の方で大きかった。さらに、雌雄を問わず、満潮時に採取した試料の方が干潮時のものと比べてシステイン酸からタウリンへの代謝速度が速い傾向があり、部位別では足筋の方が速かった。トランスクリプトーム解析で遺伝子発現量を調べたところ、満潮時および干潮時の試料とも28 %の遺伝子が既知タンパク質と相同性を示し、とくに、干潮時の試料で筋小胞体カルシウム結合タンパク質遺伝子の発現量が大幅に増大していた。 以上のように、平成24年度の研究でヤマトシジミの代謝産物量および遺伝子発現量に及ぼす塩分の影響の概要を明らかに示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究で、ヤマトシジミの代謝産物量および遺伝子発現量に及ぼす塩分の影響の概要を明らかに示すことができた。平成25年度ではさらに、GABA生成関連酵素や、システイン酸からタウリンへの変換酵素など、代謝産物量の変化に及ぼす代謝酵素の発現の塩分応答を、トランスクリプトーム解析データを詳細に解析して調べる予定である。 また、平成25年度においても再度、涸沼および涸沼川からヤマトシジミを満潮時および干潮時に採取して、メタボローム解析およびトランスクリプトーム解析に供し、平成24年度に得られたデータの再現性を確かめる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度では試料分析、データ解析に多くの時間を費やし、1回の採取の試料のみを分析およびデータ解析の対象としかできず、約40万円の次年度使用額を生じた。平成25年度では当該研究費を合わせて、試料採取を再度実施するとともに、データ解析を詳細に行う予定である。
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