ミオシン・サブフラグメント1(S1)(ホタテガイ貝柱筋由来)を対象とするシミュレーションを試みた。ソフトウェアVisual Molecular Dynamics (VMD) を利用して、原子配置を示したトポロジーファイルおよび座標ファイルを適切に書き換えて、時系列的な変化の追跡を目指した。また、アミノ酸配列からも初期構造を作成し、頭足類ミオシン重鎖の構造情報をも用いてシミュレーションを実施した。対象系全体のエネルギー最小化計算を行うとともに、溶媒および系全体の平衡化計算を行った後、VMDにより可視化を検討した。また、300 Kにおいて得られた計算結果を用いて、既知の結晶構造に対する「ずれ」の程度、すなわち平方最小二乗距離(RMSD値)を算出した。その結果、ミオシン頭部は構成原子数が多すぎて、これまで解析対象としたどのタンパク質よりも分子量が大きく、はるかに複雑な立体構造をとるため、計算量が膨大であった。本研究で用いた汎用型計算機を用いるシミュレーションの能力を超えるため、構造揺らぎを明らかにすることが難しかった。そこで、これまで検討してきたトロポミオシンの温度依存的な構造揺らぎに関して、さらに詳細な検討を加えることにした。一方、生息深度が異なる生物種(マグロ、アメフラシ等)由来のミオグロビンについても、深海性魚類における同分子の生物機能を想定し、種々の高圧条件下における構造変化についてシミュレーションを実施した。その結果、構造揺らぎに及ぼす圧力の影響は分子の領域で明確に異なること、深海に適応した生物種のミオグロビン分子は高圧下においても揺らぎの度合いが大きいことが明らかにされた。
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