研究課題/領域番号 |
24658187
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小糸 智子 日本大学, 生物資源科学部, 助手 (10583148)
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研究分担者 |
牧口 祐也 日本大学, 生物資源科学部, 助手 (00584153)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | セロトニンレセプター / シチヨウシンカイヒバリガイ / 熱水噴出域 |
研究概要 |
深海熱水噴出域や冷水湧出域に生息する深海性二枚貝類(シンカイヒバリガイ類)が、環境中の硫化水素の存在を認識しているのかを解明することを目的として分子生物学的・生理学的実験を行なった。 分子生物学的実験として、過去に採集したシチヨウシンカイヒバリガイからセロトニンレセプター遺伝子の単離を試みた。その結果、シチヨウシンカイヒバリガイとムラサキイガイについて、500塩基程度を決定することができた。シチヨウシンカイヒバリガイとムラサキイガイの相同性は高く、演繹すると2残基の置換がみられた。さらに、セロトニンレセプターがどの組織で発現しているか明らかにするため、シチヨウシンカイヒバリガイの鰓、足、外套膜、心臓から合成したcDNAを用いて組織特異性を調べた。その結果、全ての組織で発現していることが明らかになった。硫化ナトリウム溶液に6時間浸漬した個体としていない個体(コントロール)でアガロースゲル電気泳動によるcDNAの半定量解析を行なったところ、コントロールに比べ浸漬した個体はセロトニンレセプターの発現量が2倍以上高かった。ただしこれは予備実験で各々1個体しか使用していないため、今後は個体数を増やしてリアルタイムPCRによる定量を行なうことが必要である。 生理学的実験として、シンカイヒバリガイ(水温5℃)およびムラサキイガイ(水温20℃)に電極を装着し、両種から心電図を導出することに成功した。電極を装着したこれらの2種に硫化ナトリウムを添加しその応答を調べた。シンカイヒバリガイの心拍数(4.35回/分)は硫化ナトリウム添加後に低下した(3.73回/分)。ムラサキイガイの心拍数(33.0回/分)は硫化ナトリウム添加後に低下した(16.5回/分)。両種ともに硫化ナトリウム添加後に心電図が低下する傾向がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は予備実験と浅海種との比較を兼ねてムラサキイガイを中心として分子生物学・生理学実験の系を確立することができた。また、年度末に研究航海が実施され、伊豆小笠原海域の明神海丘よりシチヨウシンカイヒバリガイを採集することができたため、浸漬実験や硫化物曝露実験を行なうことができた。さらに、これまで情報が皆無であったシチヨウシンカイヒバリガイのセロトニンレセプターの部分配列を決定することができたため、次年度はリアルタイムPCRによる遺伝子定量が可能となる。したがって、より詳細な遺伝子の動態を明らかにできるものと期待している。そして、引き続きムラサキイガイを用いて同様の実験を行なうことで、硫化水素応答機構の有無について解明していく。
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今後の研究の推進方策 |
年度末に行なわれた研究航海により採集したシチヨウシンカイヒバリガイを用いて、セロトニンレセプター遺伝子の発現定量および心電図測定を行なうほか、セロトニンの直接定量を試みる。さらに、発現部位の特定や組織特異性を調べるため、in situハイブリダイゼーションを行なう予定である。また、シチヨウシンカイヒバリガイの稚貝を用いて、硫化物が付着した基質へ移動するかを検証する行動実験を行なう。これらの実験に加え、浅海種でも干潟等の還元環境に生息する二枚貝類(ホトトギスガイやウミタケなど)を用いて、同様の実験を行なう予定である。 現在まではセロトニンレセプターに主眼を置いて研究を行なってきたが、無脊椎動物体内では神経の制御のためにアドレナリンでなくセロトニンとドーパミンを利用していることが示唆されていることから、セロトニンとドーパミンの量を調節することが環境中の硫化水素への応答に関与しているのか解明したい。そのために、セロトニンおよびドーパミン輸送体遺伝子の単離を行ない、リアルタイムPCRによる発現定量を行なうことを検討している。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度はリアルタイムPCRによるセロトニンレセプター遺伝子の発現定量、セロトニン輸送体やドーパミン輸送体遺伝子の単離、セロトニンの直接定量に必要な試薬および消耗品を購入する。また、浅海の二枚貝類の採集のために旅費を計上する。in situハイブリダイゼーションの実験系を確立するため、研究協力者を招聘する予定である。
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