研究課題/領域番号 |
24658194
|
研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
西川 芳昭 龍谷大学, 経済学部, 教授 (80290641)
|
研究分担者 |
久野 秀二 京都大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (10271628)
冨吉 満之 熊本大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (20506703)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 植物遺伝資源 / 生物多様性 / 食料主権 / 種子システム / 環境教育 / 環境政策 |
研究実績の概要 |
それぞれの国や地域に住む人々が何を作り食べるかを自らが決める権利は「食料主権」と呼ばれ、主に国家レベルの量的食料確保を目標とする政策に用いられる「食料安全保障」とは異なる概念である。この権利は,普遍的な法規範として国連でも認知されている基本的人権としての「食料への権利」と密接につながる。本研究では、フードシステムの中で、特に農業生産投入の中で最も重要な要素の一つである種子システムに注目し(西川 2005)、その国家的な安全保障と農家や農村レベルでの農民の決定権に関わる「農民の権利」について行ってきた研究を前提に、世界中で近年注目を浴びている企業以外のアクターが関与する多様な種子システムについて、まず先行研究の少ない韓国の実態調査を行うとともに、その組織制度や関与するアクターの意識の違いに注目して分析を行った。 先行研究から明らかになっている、ヨーロッパにおける在来作物の種子生産・流通に対する生産者・消費者の意識において、国境を越えたネットワークも形成されていながら、必ずしも地域とのつながりが強くない点が、韓国においても観察された。ただし、韓国ではネットワークはあっても、実際の種子が国境をこえてやりとりされる例はなかった。 韓国や日本でも、F1を中心とした改良品種の普及により個々の農家や地域による自家採種は減少し、大規模な(多国籍)種苗会社が供給する種子を農家は毎年購入している状況は共通しており、農業関係の研究者が退職後にこのような問題に市民として取り組んでいる点も日本と韓国の共通点として確認された。同時に、韓国においては、種子システムに関する市民運動の参加者の多くは非農家である傾向が見られ、これは韓国の食料主権運動の特徴のひとつであると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最終年度に計画していた韓国の代表的種子市民運動団体のSEEDREAMメンバーに対するアンケート調査が、韓国の文化的背景(会員の支払い意志に関する意識調査の困難さ)および、生物多様性条約締約国会議開催国として関係者が多忙を極めたことから、実施が遅れた。一方で、二年次までの研究で追加調査の必要が提起された台湾事例と国内事例(広島)の確認調査が実施でき、全体的にはおおむね必要な情報を入手できた。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の直接の対象は種子システムであるが、種子が農業生産にとって不可欠な投入物であることから、両国においては,地域の自然・社会条件の中で育まれてきた伝統品種を用いた農業が、農業活動を通じた社会の持続性を実現する活動として注目されていることは確認できた。本研究の成果は、種子システムを通じて東アジア型の「食料安全保障」と「食料主権」の関係を明らかにし、それらの整合性の強化と不整合性の軽減を通じた農山村振興の政策提案の基礎資料を提供できることが意図されたが、韓国において自家採種運動に農民が直接関わることが少ないことが判明し、今後は台湾の例も参照しながら、都市農業と自家採種システム、自家採種と環境教育との関連性を探求することが期待される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2014年秋に韓国において生物多様性条約締約国会議が開催され、本研究の調査対象および調査協力関係者らが多忙を極め、調査研究に関する協議が遅れたため、アンケート調査が年度末にずれ、結果整理が年度を越えてしまった。
|
次年度使用額の使用計画 |
第一四半期にアンケートの単純集計を韓国側関係者と共有し、韓国側コメントを待って、今後の調査研究の方向について韓国を訪問して協議する。また、国内での研究会を後一回開催し、成果の一部の論文投稿を引き続き準備する。
|