栃木県の宇都宮大学の圃場に,植生あり・灌漑ありの露場(露場1),植生あり・灌漑なし(露場2),植生なし・灌漑なし(露場3)を設け,露場1では下向き/上向き短波放射量,下向き/上向き長波放射量,土壌水分量,7深度の地温,露場2・3では上向き長波放射量,土壌水分量,7深度の地温を観測した。また,観測結果をもとに,近藤らが提案した下向き長波放射量推定式およびFAOおよびPenmanが提案した有効長波放射量推定式の適用性およびこれらの推定式に含まれる係数について検討した。その結果は以下の通りである。(1)露場1での有効長波放射量は冬期に50 W/m2前後,夏期に20 W/m2前後となり,季節的に変動した。(2)日平均気温と露場1の観測結果から算出した日地表面温度を比較すると,地表面温度は気温より夏季には高くなり,冬季には低くなった。夏季については日射による植生面の昇温が大きかったためと考えられるものの,冬季については十分な考察を得るには至らなかった。しかし,これらは,地表面温度が気温と同一としている既往の有効長波放射量推定式について再検討の余地があることを示す結果となった。(3)植生および灌漑の有無が上向き長波放射量に与える影響については,植生の有無が灌漑の有無よりも影響の大きいことが明らかとなった。(4)近藤らの推定式を適用したところ,測器の精度や対象圃場周辺の樹木による天空の遮蔽を勘案しても説明の難しい誤差となった。この結果についてはさらなる検討が必要であると考えられた。既存の有効長波放射量推定式に関しても比較的大きな誤差が認められた。(5)既存の有効長波放射量推定式に含まれる係数の再同定を行ったところ,FAOが推奨するPenman-Monteith式に含まれる有効長波放射量推定式の係数を再同定した式の精度が最も高く,RMSEで5 W/m2の誤差で推定できることを示した。
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