ICT(情報通信技術)の普及により、詳細な気象情報が比較的容易に得られるようになった。その一方で、圃場レベルの情報は未だ十分ではく、農家は天候把握のため日々工夫を行っている。その中には、農家の経験が集約された伝統的な天候予測手法もある。 「寒試し」は江戸時代の書物「津軽噺」に記述され、青森県において250年以上伝承されてきた農家に伝わる天候予測手法である。この手法は、天候の厳しい日本海側を中心に伝承されており、現在も北海道から西日本にかけて実践例がある。この方法は、旧暦の寒の期間の気象データをもとに1年間の天候を予測するもので、農事暦や風水などに根ざしており、必ずしも科学的なものではない。しかし、「単なる迷信」として片付けるよりも、長年月受け継がれている背景を検討し、農家の慣習の中にある天候を読み解くヒントを得るとともに、その活用法の検証により、生産現場や農村地域で要求されている情報の実態を分析することが重要である。 我々は青森県のリンゴ農家グループである津軽煉成会と協働でリンゴ園地にフィールドモニタリング機器を設置し、現地画像を含む気象・土壌データを3年間にわたり自動収集した。これらデータをもとに、リンゴ農家が採用している「寒試し」データと我々の園地気象データを比較・検討を行った。また、リンゴ農家への種々の聞き取り調査により、農家が伝統的天候予測手法である「寒試し」を継続している理由を明らかにした。 その結果、「寒試し」そのものは正月から旧正月までの30日日間に2時間毎の気象データを記録し、それを単純に12倍することで、1年間の気象変動に換算しているに過ぎないが、事前に作成した予測データを農家グループが共有し、リンゴ栽培期間に毎日「寒試し」データと実際のデータを比較しながら農作業を実践することで緊張感を維持していることがわかった。これは素晴しい農家の知恵といえる。
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