研究課題/領域番号 |
24658206
|
研究機関 | 学習院女子大学 |
研究代表者 |
荘林 幹太郎 学習院女子大学, 国際文化交流学部, 教授 (10460122)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 連坦化 / 土地所有者 / 農地利用改善団体 |
研究実績の概要 |
本研究で特定した滋賀県S集落における農地所有者による農地利用改善団体創設の要因について、中心的役割を果たした集落関係者への詳細インタビューを行うことによって高い水準で明らかにした。決定的な要因としては、700年程度におよぶ集落の歴史を通じて構築された自治意識が依然として保全されていたこと、それにより集落の非農家(元農家の土地所有者)において集落の農地の持続的活用の必要性が強く共有されていたこと、末端用排水路の改修のために実施した圃場整備事業における連坦化加算が土地所有者の協調行動の大きな契機となったことなどがあげられる。 S集落と類似の事例を調査すべく、全中を通じて全都道府県の中央会の農地利用調整担当者にアンケート調査を実施するとともに、同様の調査を関東農政局管内の一部の都道府県、市町村に対して行った。この結果、S集落と類似の事例は回答を得た範囲では明確には確認できず、S集落の特異性を明らかにした。 これらの研究結果を農業農村工学会誌2014年9月号に投稿した。S集落モデルが農地制度論的には1980年代の農地利用増進法において規定された農用地利用改善団体による自主的管理パターンとして想定されていたものの、その後の公的な管理に傾倒する農政の中で結果的には例外的な存在になったこと等を論じた。 また、S集落モデルのコモンズ論の観点からの概念的分析をさらに深め、資源の所有者が協調して個別の所有権を大きく超える利用に対して規律をもたらす本モデルは、その規律がもたらす正の外部性が存在するときに大きな意味をもつこと等を分析した。コモンズ論的特質を明らかにするため、同じく土地の利用と調整に大きな課題を抱えており、かつコモンズ論からのアプローチの実績が多い森林分野との比較を予備的に実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では最終年度としていた26年度については、全国的なアンケート調査を行った結果、S集落と類似の事例を明示的に特定することができなかったため、類似事例によるS集落モデル構築のための要因分析を行うことを断念せざるを得なかったことから、研究期間を1年間延長することとした。しかしながら、S集落の詳細な分析及びそれを基にした概念的な枠組みの構築により、新たなコモンズ論的な観点から我が国の農地利用調整のあり方を提案しようとする本研究の中核部分は順調に進んでいると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度となる本年度については、まず5月にカナダで開催される国際コモンズ学会世界大会において2本の発表を行いコモンズ研究者と本研究についての議論を深めることとしている。1本は、資源の所有者が協調して個別の所有権を大きく超える利用に対して規律をもたらす本モデルは、その規律がもたらす正の外部性が存在するときに大きな意味をもつこと、そしてそのことはコモンズ論的には新たな視点となりうる可能性を持つことについてである。もう一本は、森林との比較の観点で、S集落と森林分野の事例を比較分析するものである。また同じく5月に米国で開催される農村振興政策に関する世界会議においてもS集落モデルの農村振興上の意義について講演を行う。これらの議論等をもとにS集落のコモンズ論的意義についての分析を完成させる。 また、定量的分析については、滋賀県が約400集落を対象に行った集落調査データをもとに集落の協調行動に影響を与える因子分析を行うことにより、当初の予定としたS集落モデル決定要因の因子分析を代替する。さらにそれに彦根市における各集落の農業組合長を対象としたS集落モデルの実行可能性に関するインタビュー調査を行い、上記定量分析を補完することとする。 S集落の分析およびコモンズ論的意義についてはそれを著作として刊行することを、定量分析については査読付き論文としての発表をそれぞれ目指すこととする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
26年度において全国的なアンケート調査を行った結果、S集落と類似の事例を明示的に特定することができなかったことから、類似事例によるS集落モデル構築のための要因分析をできなかったこと、それに伴い研究成果を政策立案者等と議論するためのワークショップを開催できなかったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
5月にカナダで開催される国際コモンズ学会世界大会において2本の発表を行いコモンズ研究者と本研究についての議論を深める(約50万円)。また、定量的分析については、滋賀県が約400集落を対象に行った集落調査データをもとに集落の協調行動に影響を与える因子分析を行うことにより、当初の予定としたS集落モデル決定要因の因子分析を代替する。さらにそれに彦根市における各集落の農業組合長を対象としたS集落モデルの実行可能性に関するインタビュー調査を行い、上記定量分析を補完することとする(謝金、国内旅費、テープ起こしに約80万円)。さらに研究結果とその政策への応用可能性を議論するためのワークショップを開催する(約15万円)。
|