2015年5月にカナダで開催された国際コモンズ学会世界大会において2本の発表を行いコモンズ研究者と本研究についての議論を深めた。1本は、資源の所有者が協調して個別の所有権を大きく超える利用に対して規律をもたらす非農家主体土地所有者組合モデル(「新海モデル」)が、その規律がもたらす正の外部性が存在するときに大きな意味をもつこと、そしてそのことはコモンズ論的には新たな視点となりうる可能性を持つことについてである。もう1本は、森林との比較の観点で、新海モデルと森林分野の事例を比較分析することにより、本モデルのコモンズ論的特徴をより明確にしたものである。 さらに、上述の1点目の観点の議論を補完するために、欧州の農地・牧草地に係るコモンズ研究の第一人者であるオランダ・ユトレヒト大学教授と土地所有者組織の重要性について意見交換を行うとともに、類似組織の調査をオランダにて実施した。その結果、土地所有者組織が環境管理などにおいて効果的な役割を果す可能性について強い示唆が得られた。 上記を踏まえて、本研究が対象とした、利用と所有が分離された状況にある土地について所有者が集合的行動をとることの重要性についてコモンズ論的に新たな視点となりうることを確認するとともに、環境や景観保全の観点で本研究モデルが他国との互換性を有する可能性を確認した。 また、農地の面的集積に対する土地所有者組合の有効性に関する定量的分析については、滋賀県が約400集落を対象に行った集落調査データをもとに集落住民による集合的協調行動が農地利用調整に与える影響分析を行うことにより代替した。さらに、モデル地区の周辺の集落の農業組合長等を対象とした農地の面的集積に関するインタビュー調査を行い、土地所有者の集合行為を促すための集落内の協調行動習慣が残存しているか否かが面的集積において大きな要素となることを定性的な観点から補完した。
|