研究概要 |
シソ科植物「シモバシラ(Keisukea japonica, Miq.)」の氷晶析出現象について、析出機構と吸水機構の解明を目的に、氷核活性機能、析出と茎の構造、通水経路の室内実験を行った。氷核活性機能は、東京都・高尾山と陣馬山で採取した試料を用いて、活性部位、活性温度、季節変動を調べた。その結果、木部より皮層で活性が高く、活性機能が季節変動して夏期から初冬の氷晶析出直前に向けて高まり、多くの試料で活性温度が-2.1~-2.5℃になることが判明した。氷晶析出機構は、室内凍結実験で根系を除去した茎のみでも氷晶が析出したことから、茎の構造が析出をもたらすことが示された。電子顕微鏡写真から、茎の木部表面に1μm大のピット(壁孔)が見つかった。また、蛍光色素溶液を吸収させた茎の3次元蛍光画像解析から、茎内部の給水は、木部の導管を中心に周辺部位を経由して起こることが確認された。以上の結果から、氷晶析出機構と吸水機構はつぎのように推論される。気温が-2~-3℃に低下したとき、木部表面にある水は氷核活性機能によって過冷却が破れて凍結し、ピットによって氷晶の木部内部への侵入が阻止され、氷成長面で駆動力が発生する。この駆動力によって土壌水が根系から導管を含む部位を経て木部表面に供給されて、連続した氷晶は析出する。 植物による氷晶析出現象は、シモバシラに限らず他のシソ科植物にみられるだけでなく、他の科目の植物にもみられ、現在までに20種を超える植物について野外実験で確認された。このため、研究空白域である植物外凍結として、植物が起こす一般的な現象とみることができる。 また、こうした現象は、過冷却水と氷を隔てる役割をもたせる、ピットに似せた形状の穴を膜などの材料に備えることで、温度制御によって強力な吸水機能をもつバイオミメティクス技術として応用が期待できる。
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