研究課題/領域番号 |
24658208
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
牧野 義雄 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (70376565)
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研究分担者 |
秋廣 高志 島根大学, 生物資源科学部, 助教 (40508941)
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キーワード | 疎水性水和 / 野菜 / 機能性物質 |
研究概要 |
ブロッコリー、キャベツ等アブラナ科の野菜に含まれる化学物質「スルフォラファン」が、ピロリ菌の毒素に起因する胃癌の発症を抑制する効果を持つことが知られており、野菜の健康増進作用を裏付ける要因として重要視されている。ただし、新鮮な状態ではスルフォラファンはほとんど存在せず、野菜に含まれる辛味物質「グルコシノレート」に酵素「ミロシナーゼ」が作用することで、スルフォラファンが生成する。 高圧でXeをブロッコリー花蕾細胞内に溶解することで疎水性水和物を形成し、ミロシナーゼ触媒反応を促進させる研究を行ってきた。その中で、ブロッコリーを嫌気状態で貯蔵することによってスルフォラファン濃度が著しく上昇するという、新たな現象を偶然に発見した。しかも、水和物形成による方法よりもスルフォラファンを効率よく蓄積させることが可能であることも明らかになった。この方法は、過去に誰も示唆したことのない、意外な発見であり、セレンディピティーとなる可能性を秘めている。 気体遮断袋中にブロッコリーを封入し、20℃で貯蔵したところ、通気性の高い袋での貯蔵と比較して、スルフォラファン濃度が著しく上昇するという現象が再現された。袋内気体組成の経時変化も併せて測定したところ、気体遮断袋中のブロッコリーはO2欠乏に陥っていることが確認され、CO2濃度も同時に著しく上昇した。このことから、O2ストレスまたは高CO2がスルフォラファン蓄積に影響を及ぼしている可能性が考えられた。また、気体遮断袋中のブロッコリーは、エタノール、アセトアルデヒド等の発酵に起因する異臭を発していることも確認された。これも、O2欠乏が原因と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目に入り、機能性物質を増強する具体的な方法を明らかにすることができたので、順調に進展していると考える。しかも、実験中偶然発見した意外性のある方法であったことから、当該成果は、挑戦的萌芽研究という種目にふさわしい知見であると考えている。3年目(最終年度)に総仕上げの実験を追加すれば、有意義な成果を上げることができると見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目に発見した機能性物質の増強方法が意外性のある発見であったため、当該現象を裏付ける生理的なメカニズム等詳細を、今後の研究の積み重ねによって解明していく必要がある。 また、青果物を嫌気状態で保存すれば、発酵に起因して異臭が発生し、品質を損なう原因となる。このことから、機能性物質を増強しつつ、品質を損なわない貯蔵条件を選択する必要がある。そこで最終年度は、微細孔袋「P-プラス」を数種類用意し、包装貯蔵することで、環境気体組成と機能性物質濃度の関係を詳細に検討する。すなわち発酵を惹起せず、スルフォラファンを増強可能な貯蔵条件の発見を目指す。さらに、機能性物質生成に関連する代謝物質も併せて分析することにより、嫌気条件下で機能性物質濃度が著しく上昇するメカニズムについても明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
高価なXeガスを使用する方法よりも、さらに安価な方法で、ブロッコリー花蕾中機能性物質を増強可能な方法を発見したため、予定よりも物品購入費の支出額が少なくなった。 新たに発見した機能性物質増強法については、今後新たに科学的にメカニズムを証明する必要があるため、次年度使用額と翌年度分として請求した助成金を合算した費用を執行して研究を進める。
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