本研究は①ため池水温成層モデルの構築、②圃場への冷水導水過程による熱損失、③冷水による水稲の外観品質への効果の確認の3つを目的として開始し、従来利用されてこなかったため池深水層の冷水の水質を確認するため溶存酸素濃度測定も昨年度より追加した。 ①に関しては、最大満水位20m超の小川下池では二股上池や鍛冶池と異なる水温変化が生じており、急な水位変動に呼応して水温が急変する観測結果が得られた。②に関しては、本年の夏季の気候が低温・寡照で推移したため、ため池から下流約1kmの水口までの昇温は1℃強となり、昨年と比較して約1℃以上小さかった。③に関しても、冷涼な気温推移により冷水処理と対照処理では外観品質に差が見られなかった。また溶存酸素については、池底では無酸素化しているが、樋門1(上部)や樋門2(下部)から水路に流れ出る水のDO値は5mg/l以上で、水路内では10mg/l程度になっており、問題がないレベルであった。 全期間の研究成果を総括すると、ため池水温成層モデルについてはほぼ水深に応じた温度成層が形成され、単純な温度勾配モデルで表すことが可能であるが、水位変動の激しい池ではカンガイ期間中のモデル化は難しいが、水深10m以下ではその影響を受けなかったことから、ため池深水層の利用上は単純なモデルを適用できる。ため池から圃場までの冷水の導水過程による昇温は理論値よりは大きいものの、1kmの路程当たり1℃~3℃程度の上昇とみられ、大きな冷熱損失はなかった。冷水を導水することによる水稲の外観品質への効果は通常年では効果はなかったが、2010年の高温年では冷水処理が玄米の外観品質に効果的であったことが統計的に明示された。以上から、ため池深水層の冷水エネルギーの活用は、その水温動態、導水によるエネルギー損失、水稲への冷水効果および深層水の溶存酸素濃度から十分利活用が可能と結論付けられた。
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