研究課題
本研究は、乳房炎発症組織におけるシクロフィリンA(CyPA)の発現様式および乳房炎乳汁中におけるCyPAの検出方法を確立し、その分泌と病態との関連性を明らかにすることにより、ウシ乳房炎早期診断・治療法開発への応用戦略を図ることを目的とする。今年度は、乳腺上皮細胞におけるCyPAの発現機構解析を行った。組織解析には、分娩後約300日で2産目ホルスタイン種牛の乳頭孔にStaphylococcal Endtoxins-C(SEC)を接種、あるいは分娩後約60日で初産ホルスタイン種牛の乳頭孔にStaphylococcas aureus (S.A.)を接種した実験的乳房炎組織を使用した。CyPA発現は、免疫組織化学染色法を用いて解析した。SEC接種乳房炎組織では、正常および乳房炎の乳腺上皮細胞が共にCyPAを発現していた。特に、乳房炎を発症した乳腺組織では、乳腺上皮細胞、乳汁および浸潤部位で強くCyPAが発現し、異常な形態と重度な細胞浸潤が認められる乳腺上皮ではCyPA発現がさらに強まった。S.A.接種乳房炎組織においても、正常な乳腺上皮細胞でCyPA発現が確認され、炎症が認められる乳腺上皮および細胞浸潤が見られる乳汁中でCyPAが強く確認された。一方、乳腺胞が退化した部位や炎症の進行に伴う間質肥大によって乳腺胞が委縮した乳腺上皮では、CyPA発現が弱いことを確認した。本研究により、CyPAは乳腺上皮細胞で発現し、泌乳期では腺胞内乳汁中へ微量分泌されることが判明した。また、乳房炎発症により、乳腺上皮細胞からの乳汁中へ大量にCyPAが分泌され、顆粒球の動員などの炎症を誘起する可能性が示された。以上より、泌乳期における乳汁中CyPAは、潜在性および急性乳房炎の乳汁中で高感度に検出され、乳房炎早期診断マーカーとなり得る可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
今年度成果により、CyPAは乳腺上皮細胞で発現し、腺胞内乳汁中へ分泌され、乳房炎発症によって乳腺上皮細胞からの乳汁中へ大量にCyPAが分泌されることを証明することが出来た。CyPAは細胞遊走活性を有することより、顆粒球の動員などの炎症を誘起する可能性が示した。また、乳汁中CyPAは、潜在性および急性乳房炎の乳汁中で高感度に検出され、乳房炎早期診断マーカーとなり得る可能性を示すことが出来たことは、非常に大きな成果であった。加えて、今回の研究成果により、乳牛の乳房炎発症時と乳汁中CyPA分泌量の相関を求め、簡便な検査法法の開発を推進する意義および重要性が明確となった。
次年度は、以下の研究を行う。1)乳汁中シクロフィリンAの検出と乳房炎病態との関連性の解析乳房炎発症と乳汁中シクロフィリンAの関連性を明らかにする目的で、正常乳および乳房炎罹患牛の生乳を用いて、乳腺上皮細胞から乳房炎乳中に分泌されたシクロフィリンAを検出し、分泌される時期およびその濃度を明らかにすることにより、シクロフィリンA分泌と乳房炎罹患との関連性を解析する。検出方法は、既に確立している培養上清中シクロフィリンAのウエスタンブロット解析およびELISA法を用いるが、乳汁蛋白への応用が不明であるために、まず乳房炎乳汁蛋白を精製して乳汁中シクロフィリンAの濃度を決定する。生乳は東北大学附属フィールドセンター川渡牧場あるいは酪農家の協力を得て収集し、乳汁中シクロフィリンA濃度の測定と乳房炎病態との関連性を解析する。2)乳汁中シクロフィリンAの簡易測定法の確立酪農現場での応用を図るには、簡便な乳汁中シクロフィリンAの検出方法を確立する必要がある。簡便測定法としては、一次元免疫拡散法あるいはラテックスビーズ凝集法の応用を試みる。具体的には、一次元免疫拡散法は、抗シクロフィリンA抗体を含入したアガロースゲルに空けた穴に生乳を一定量入れことにより、生乳成分は一次元的にゲル中を拡散する。その際、ゲル中に含まれる抗体とシクロフィリンAは結合して拡散が阻害され、視覚的に確認に出来る結合物のリングを形成する。また、生乳中のシクロフィリンA濃度とリング半径が比例することより、シクロフィリンA濃度を決定する。ラテックスビーズ凝集法は、抗シクロフィリンA抗体を結合したラテックスビーズと生乳と混合し、生乳中のシクロフィリンAと抗体が反応することにより、凝集体が生じ、その凝集度からシクロフィリンA濃度を決定する。
本研究課題を遂行するために必要な設備および機器類は既に整っているので、本研究でも継続して使用可能である。よって、研究は組織細胞化学、細胞生物学と遺伝子解析が中心的な手法となるために、本研究費は組織染色試薬、牛胎児血清、ディスポ器具および培養関連試薬と遺伝子関連試薬などの消耗品購入費が主体となるが、予算内での実行が可能である。
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http://www.agri.tohoku.ac.jp/keitai/index-j.html