本研究は受精阻害に関わる遺伝子を利用した、ほ乳動物の産み分け技術の開発を目的とした。昨年度作製した遺伝子組換え個体のうち、受精阻害遺伝子Aが機能したことで雄が不妊になった系統が3系統得られた。また、別の1系統では生まれてくる産子がすべて組換え遺伝子を持っていないという系統が得られた。前者の3系統のマウスでは、受精阻害遺伝子産物が精子形成の過程で隣接するすべての精子細胞に伝達されたため、雄個体が不妊になったことが考えられる。そこで、遺伝子産物が隣接した細胞に移行しない機能を持つことが報告されているSmok1遺伝子の上下流領域を受精阻害遺伝子Aに接続した遺伝子を構築し、組換えマウスを作出し、3系統の雄マウス、2系統の雌マウスを得た。得られた雄系統のうち1系統においては雄個体からの産子が得られたが、後代に遺伝子組み換え産子が得られていることから、報告されているSmok1遺伝子の5’および3’領域には細胞間架橋の通過阻止機能はない可能性が示唆された。他の系統においては現在交配実験を継続中である。また、上述した3系統が不妊になった別の可能性として、組換え遺伝子が複数の染色体に導入されたことも考えられるが、後代が得られていないため、解析はできない。次に、前年度作出した遺伝子組み換え産子を産まない別の1系統のマウスの後代を作出するために、この組換えマウスから採取した精子を用いて、体外受精によって遺伝子組換えマウスを作出したが、生まれた遺伝子組換え個体は雌のみであったため、現在交配を継続して雄個体の作製を試みている。また、この系統の雌においてサザンブロッティングで導入された遺伝子のコピー数を検定した結果、正確なコピー数は得られなかったが、非常に多くのコピーが染色体へ導入されたことを示す結果が得られており、コピー数に依存した受精阻害効果の可能性も示唆された。
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