研究概要 |
本年度は、RNAシーケンスのデータを用いて、着床前初期胚の発生およびその分化に関わる母性mRNAの同定を試みた。 これまでの報告で、母性mRNAの中で受精後に急速に分解されるものとそうでないものが存在することが知られていることから、まず受精後に急激な分解を受ける母性mRNAを除く作業が有効であることが考えられた。そこで、受精前の成長卵において発現量の低い遺伝子を除いた9,128遺伝子由来の母性mRNAの受精後における分解パターンについてクラスター解析を行った。その結果、全体の約2/3に相当する6,025遺伝子由来の母性mRNAが急速に分解されることが明らかとなった。しかし、残りの母性mRNAは急激な分解から逃れており、さらに全体の7.6%に相当する691遺伝子由来のものは1細胞期の間にほとんど分解されないことが明らかとなった。現在、急速な分解を受けないものの中で、卵特異的に発現するものを抽出することで目的の母性mRNAの候補をさらに絞り込む作業を行っている。また、これらの急速な分解を受けるものと受けないものとの間でその機能的特徴に差異があるかどうかを調べるために、gene ontology解析を行ったところ、急速な分解を受けないものにおいて転写に関わる遺伝子が顕著に多いことが分かった。 以上の結果より、着床前初期胚の発生およびその分化に関与する母性mRNAの同定は未だ達成されていないものの、その候補となる遺伝子を網羅的に得ることができ、さらにこれらが転写調節に関わっている可能性があることが示された。
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