研究課題
公衆衛生上重要なウイルスの多くは、レポーター遺伝子を安定的に発現する組み換えウイルスが作出され、その生体内感染動態の解明に利用されてきた。一方インフルエンザウイルスは、人類史上最も精力的に研究されてきた病原体のひとつであるにもかかわらず、遺伝子複製時の変異率の高さや、分節遺伝子のウイルス粒子内取り込み機構も繊細さ・複雑さのため、野生型ウイルスが持つ本来の感染細胞指向性や感染動態のダイナミズムを反映する組み換えウイルスを作出することができなかった。本研究では、ウイルスそのものの遺伝情報を書き換える代わりに、生体を構成する各細胞内にレポーターインフルエンザvRNAを強制発現する、トランスジェニックマウス(Tgマウス)を作出する。レポーター遺伝子をコードした組み換えインフルエンザvRNA(1本鎖・マイナス鎖RNA)は、細胞にとって無害で、vRNAの転写・翻訳に必要な3種類のRNAポリメラーゼ蛋白質群が供給されない限り、レポーター遺伝子を発現しない。この組み換えvRNAを発現した細胞にインフルエンザウイルスが感染すると、ウイルス由来のRNAポリメラーゼ蛋白質群が組み換えvRNAを転写・翻訳し、レポーター遺伝子が発現する。そのため、このTgマウスにウイルスを感染させ、その臓器や細胞を蛍光顕微鏡やフローサイトメーターにより継時的に検出・追跡することで、生体内におけるウイルス感染の時間的・空間的な拡がりを解析することができる。また、vRNAの転写・翻訳機構は、A型インフルエンザウイルスに広く保存されているため、本研究で作出するTgマウスは、理論上あらゆるA型インフルエンザウイルスの解析に応用でき、病原性の異なるウイルス株間での感染動態も容易に比較できる。
2: おおむね順調に進展している
組み換えvRNA発現用コンストラクトの構築、ならびに検討は予定通りに完了し、東京都医学総合研究所の小原道法先生ならびに多屋長治先生のご支援の下、平成24年7月より、Tgマウスの作出ならびにマウス系統の樹立を進めている。これまでに5匹のF0 Tgマウスが得られており、このうち3系統は、挿入した組み換え遺伝子が子孫に伝わることも確認した。これまでのところ、マウスの発育や産子数にも大きな影響は見られておらず、今後の研究の遂行にも支障はない。
各マウス系統から繊維芽細胞を樹立し、in vitroのウイルス感染実験を行って、レポーター遺伝子の発現強度やウイルス増殖効率を指標にしながら、本研究の遂行に最も適したマウス系統を選抜する。次に、マウス馴化インフルエンザウイルス実験室株であるWSN株やPR8株を用いたin vivo感染実験を行い、レポーター遺伝子とウイルス蛋白質の発現部位が一致することを確認して、本Tgマウスの有用性を示す。その上で、ウイルス感染動態の詳細な解析や、ウイルス株間での動態比較などを行うことで、インフルエンザウイルス感染動態に関する新しい知見を得ていく。
該当なし。
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