研究課題
“One World, One Health”のもと、野生動物由来感染症の重要性が認識されつつある。申請者らは近年、野生動物から幾つかの新規ウイルスの分離に成功してきた。しかし、野生動物由来培養細胞は少なく、ウイルス分離には困難が伴っている。本申請研究では、様々な動物種から網羅的にウイルスを分離するための各種細胞株の樹立を試みた。1.ウイルスのエンベロープ上に存在する糖鎖を認識するレセプターDC-SIGNとDC-SIGNRを発現するVERO細胞の樹立に成功した。本細胞は本来犬のSLAMを認識して細胞内に侵入する犬ジステンパーウイルスの増殖を可能にした。この細胞を用いれば、糖鎖を持つすべてのウイルスの分離が可能になると期待している。2.ウイルス分離の際に問題となるのが、感染により生じた抗体がウイルスの細胞への感染を阻害し、分離できないことである。我々は、抗体と結合したウイルス分離を可能にするために、猫のFcレセプターを発現するVero細胞とBHK細胞の樹立に成功した。Fcレセプター発現BHK細胞は抗体と結合した猫伝染性腹膜炎ウイルスの細胞内侵入を可能にした。この細胞により、抗体が出現した検体からもウイルス分離が可能になると期待している。3.重症な感染症を引き起こすウイルスの多くは血管内皮細胞を傷害する。血管内皮細胞株はほとんど樹立されておらず、ウイルスの侵入の解析も進んでいない。そこで、ヒト由来血管内皮細胞(HUVEC)をSV40のLarge T抗原で形質転換し、その100代以上の継代に成功した。本細胞における日本脳炎ウイルスの増殖を確認している。4.ウイルス分離のためのモデルと考えているE型肝炎ウイルスについてはヒト血清およびイノシシ血清、イノシシ肝臓から遺伝子検出に成功しており、各種樹立細胞を用いてウイルス分離を試みる準備が整った。
1: 当初の計画以上に進展している
多くウイルス表面に存在する糖鎖を認識するDC-SIGNおよびDC-SIGNRを発現した細胞の樹立に成功し、ウイルスの分離に用いる点はこれまでの発想になく斬新であると考えている。また、Fcレセプターを発現する細胞の樹立に成功し、抗体が出現している検体からもウイルス分離を可能にするという点はこれまでにない発想である。両細胞を用いれば、多くのウイルス分離が可能になると考えている。また、ヒト血管内皮由来培養細胞の樹立はウイルス研究のみならず多くの研究に利用できると期待している。以上により、当初の計画よりも更に進展した成果を出していると考えている。
1.樹立した細胞の有用性を確認するために、各種動物からのウイルス分離を試みる。2.これまでにE型肝炎患者血清、E型肝炎ウイルス感染イノシシ肝臓と血清の回収を行ったので、E型肝炎ウイルスの分離を試みる。E型肝炎に関してはレセプターを同定することを目的にカプシドの発現を試みる。3.ウイルス感染を迅速に検出するために、ウイルス感染に反応し蛍光発色するDC-SINGR発現Vero細胞の樹立を試みる。
該当なし
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