研究課題/領域番号 |
24658258
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
山田 健太郎 大分大学, 全学研究推進機構, 助教 (70458280)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 狂犬病ウイルス / ワクチン / N型糖鎖 |
研究概要 |
狂犬病はワクチンで予防可能な感染症であるにもかかわらず、途上国・新興国では今もなお狂犬病が流行している。この一因として、現行の狂犬病ワクチンは不活化ワクチンであるため、その製造コストが高いことが挙げられる。最近、我々は狂犬病ウイルスGタンパク質へのN型糖鎖の追加が、増殖性と中和抗体誘導能を著しく亢進させることを見出した。そこで本研究では、Gタンパク質にN型糖鎖を遺伝子工学的に複数個導入することで、高免疫原性・高増殖性を有する不活化ワクチン用シード株の開発を目指す。高免疫原性・高増殖性は、ワクチンの低コスト化に寄与し、狂犬病制圧に貢献できると考えられる。 そこで本年度は、まずN型糖鎖を複数個追加した狂犬病ウイルスGタンパク質発現プラスミドを網羅的に構築し、G遺伝子欠損狂犬病ウイルスを利用して高増殖性を有する変異Gタンパク質のスクリーニングを行った。その結果、N型糖鎖単独追加(第37位、146位、158位、194位もしくは第247位)によりウイルス産生量が亢進されることが再確認されたが、2箇所追加した場合ではいずれも単独追加よりウイルス産生能が亢進されることはなかった。またN型糖鎖を4もしくは5個追加した場合には逆に野生型Gタンパク質よりもウイルス産生能が著しく低下した。さらに、構築したGタンパク質発現プラスミドについて、全ての株で保存されている第319位のN型糖鎖を欠損させた一連のプラスミドを構築し、それらのウイルス産生能を評価したところ、いずれも野生型より低下していた。したがって、第319位のN型糖鎖はGタンパク質の機能発現に必要不可欠であることが再確認された。一方、構築したプラスミドを針無しインジェクターによりマウスに投与することでウイルス中和抗体価の顕著な上昇が認められ、一連のGタンパク質変異体の免疫原性の評価において有用な方法であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定通り、N型糖鎖を複数個追加したGタンパク質発現プラスミドを網羅的に構築し、ウイルス産生量を著しく増大させる変異体を選択するため、G遺伝子欠損狂犬病ウイルスを利用したアッセイ系によりスクリーニングを行ったが、目的とする変異体は得られなかった。同様に、弱毒生ワクチン用種株作製に向け、第319位のN型糖鎖を欠失しつつもウイルス産生能が損なわれていない変異体の取得も試みたが、成功しなかった。マウスへのプラスミド免疫法によりGタンパク質の免疫原性を評価可能であることは確認できたが、N型糖鎖複数個追加Gタンパク質の免疫原性の比較・評価は行えず、次年度に持ち越された。以上のように、当初の計画に従い研究は概ね遂行させることができたが、期待した成果を今のところ得るには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度では想定したような、高増殖性を有したN型糖鎖修飾改変狂犬病ウイルスGタンパク質を得ることができなかった。しかし、N型糖鎖を4もしくは5個追加したGタンパク質はin vitroにおいて通常の条件ではウイルス産生能が大幅に損なわれていたが、ある条件下でウイルス産生能が回復されることを発見した。このことは、Gタンパク質N型糖鎖改変により特殊な培養細胞では増殖可能であるが生体内では増殖が困難である株、すなわち高度に安全な弱毒生ワクチン株の開発が可能であることを示す。そこで、最終年度であるH25年度では、当初の計画(スクリーニングにより得られた候補N型修飾改変Gタンパク質を有するウイルスの作製とワクチン種株としての有用性の評価を行う)を若干変更し、特殊な条件下でのみ増殖性を示し、かつ高増殖性を示すN型糖鎖修飾改変Gタンパク質の開発を目指す。さらにそのGタンパク質の免疫原性についても評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度の年度末にマウスへのDNA免疫法によりN型糖鎖修飾改変Gタンパク質の免疫原性について比較および評価を行う予定であったが、ちょうどその時期に動物実験室への立入調査および研究代表者の海外出張があったため、マウスを使用した実験を遂行できなかった。その結果、マウスを購入するための研究費が次年度への繰越となった。H25年度に繰越となった研究費は、H24年度に計画していたGタンパク質の免疫原性の評価のためのマウス購入に充てる予定である。さらに、H25年度では当初の計画を変更して、特殊な条件下でのみ増殖性を示し、かつ高増殖性を示すN型糖鎖修飾改変Gタンパク質の開発およびその免疫原性の評価を行うこととした。したがって、H25年度の予算はその改変Gタンパク質用プラスミドの網羅的構築、制限増殖性に関するスクリーニングおよび免疫原性評価にかかる消耗品費・人件費に充てることを計画している。
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