研究課題/領域番号 |
24658264
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中山 裕之 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (40155891)
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研究分担者 |
内田 和幸 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (10223554)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | イヌ / 内視鏡 / 炎症性腸疾患 / 低グレードリンパ腫 / 病理組織診断 / クローナリティー検査 |
研究概要 |
平成24年度は、症例の収集と2次診療病院における内視鏡サンプルの取扱いの標準化が行われ、病理診断と臨床データ解析が行われた。研究成果としては胃内視鏡についてはラセン菌寄生の評価方法に関する臨床・病理的データ、炎症性腸疾患におけるケモカイン類の動態に関するデータが学術雑誌に公表された。また現在公表準備中のデータとして、病理的に診断された慢性炎症性腸疾患、低グレードリンパ腫、および高グレードリンパ腫の3群におけるTCRおよびIgHのクローナリティー検査の一致率と予後因子の検討に関する東京大学動物医療センター分の解析がほぼ終了した。本研究の結果では、この3疾患の予後には有意差があり、3群を臨床的に分類することは重要であること、現段階ではクローナリティー検査の結果の方が病理組織学的診断と比較してより有意な予後決定因子であることが判明している。同様の検討を日本動物高度医療センター(JARMeC)および動物がんセンターの協力を得て実施しており、関東圏の主な二次診療施設におけるデーターが非常に短期間ながらも十分な症例数を持って収集された。 一方平成24年には岡崎県生物研究センターにおいて医学と獣医病理の交流を目的としたセミナーを主催し、テーマの一つとしてイヌ・ネコの消化管における低グレードリンパ腫に関する協議を行った。このディスカッションをつうじ、医学領域の複数の病理医よりこれらの動物にみられる消化管の低グレードリンパ腫の病理組織像はヒトのグルテン反応性腸症に続発するリンパ腫と類似性が高いとの指摘をうけた。本研究では慢性の腸炎を基礎疾患として多くの低グレードリンパ腫が発症すると予想しており、ヒトでも類似病態が存在することが理解できたのは大きな収穫であった。全体としては当初計画をこえる成果が一年間で得られたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績にも記載したが、平成24年度には関東圏の3つの二次診療施設の内視鏡サンプルが同時に収集されたことから、短期間にもかかわらず非常に多くのサンプルと臨床情報が収集された。また東京大学で継続的に実施されていた病理と内科の共同研究より4報の学術論文が公表され胃におけるラセン菌寄生の病態や慢性炎症時のサイトカイン類の病態が解明された点は大きな成果と考える。 さらに医学領域との交流会を実施することで、イヌ・ネコの慢性腸疾患からリンパ腫への一連のシークエンスを持った病態を解明する手がかりが得られたことも大きな進展であった。問題点としては、内視鏡診断において病理学的診断よりも遺伝子クローナリティー検査の方がより有意な予後決定因子である点であり、現在実施している病理学的評価方法には改善の余地が多いことを示唆するものである。この点については平成25年度により詳細に検討する必要があるが、この点を明確にできたことはむしろ平成24年度の大きな実績であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在東京大学におけるデータ解析がほぼ終了し、学術雑誌への投稿を準備している段階であるので、この研究成果を公表し、慢性腸炎、低グレードリンパ腫、高グレードリンパ腫の分類方法を平成25年にはより詳細に検討して標準化を図る。 平成25年度は最終年度にあたるため、得られた結果を公表するためのセミナーを開催し、より多くの獣医病理医、獣医内科医にくわえ人医も交えて診断基準の妥当性を検証して、その意義や方法論をウェブや学術雑誌に広く公表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度と同様、標本作成やクローナリティー検査に関連する消耗品や抗体類に予算をあてる。平成25年度には再度セミナーを開催する予定であるので必要に応じて講師の招へいなどにひつような経費を計上したいと考えている。
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