研究概要 |
犬のリンパ系腫瘍における病態解明を進めるとともに予後因子を探索するため、p16, p15, p14遺伝子のジェネティックな異常およびエピジェネティックな制御に関して検討を行った。 犬のリンパ系腫瘍由来細胞株のうち、3株においてp16遺伝子の発現低下が認められたが、当該遺伝子領域の欠失がなかったため、その発現抑制にはエピジェネティックな機構の関与が推察された。そこで、p16遺伝子に関して、DNAメチル化によるエピジェネティックな制御について検討した。p16 mRNAの発現が低下していた3株のいずれにおいても、そのCpG islandは高メチル化状態であり、メチル化阻害薬(5-aza-dC)の存在下での培養によって発現量が増加した。一方、p16発現量が増加していた細胞株においては、CpG islandは非メチル化状態であり、5-aza-dC処理による発現量の増加は認められなかった。以上の結果から、犬のリンパ系腫瘍細胞において、エピジェネティックな異常として、DNAメチル化を介したp16遺伝子の不活化が存在することが示された。 次に、犬のリンパ腫の症例から採取した腫瘍サンプルにおけるp16, p15, p14遺伝子の発現量を解析し、その予後への影響を検討した。単変量解析では、p16発現レベル、WHO臨床サブステージ、免疫学的細胞系統、および解剖学的発生部位が予後に影響を与える因子として検出された。多変量解析の結果、p16発現レベル(上昇)および免疫学的細胞系統(T細胞系由来)といった2因子が負の予後因子として抽出された。p16遺伝子の発現低下とCpG islandのメチル化との間には関連が認められず、その発現制御にはDNAメチル化以外のエピジェネティックな機構が関与しているものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
6種類の犬のリンパ系腫瘍細胞株(CL-1, GL-1, UL-1, CLBL-1, Nody-1, Ema)を使用し、p16, p15, p14の各遺伝子について、ジェネティックおよびエピジェネティックな変化を解析した。その結果、2つの細胞株(Nody-1, Ema)に関してジェネティックな変化により、また3つの細胞株(GL-1, UL-1, CLBL-1)に関してはエピジェネティックな変化によってこれら遺伝子の不活化が認められた。犬のリンパ系腫瘍症例においても同様なジェネティックおよびエピジェネティックな変化を検出することができ、さらにp16遺伝子に関しては、その発現量が予後に影響することが示された。 このように、当初予定していた研究計画をおおむね予定通り実行することができ、本研究は順調に進展しているものと考えている。
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