研究課題
ヒトおよび動物の腫瘍性疾患に関しては、長年の間ジェネティックな変化(ゲノム塩基配列の変化)によってその病態を説明しようとする研究が進められてきた。しかし、発生・分化のメカニズムにおいて働いているエピジェネティクスによる制御(ゲノム塩基配列の変化を伴わない制御)の破綻が腫瘍の病態にも密接に関連する可能性が示唆されてきた。本研究においては、動物の腫瘍、とくにイヌのリンパ系腫瘍を対象として、癌遺伝子および薬剤耐性関連遺伝子のエピジェネティクな変化を明らかにしたいと考えた。はじめに、イヌのリンパ腫細胞における細胞周期調節に関与する遺伝子であるp16, p15, p14の発現量を解析したところ、T細胞リンパ腫では同領域染色体の広範な欠失による完全不活化が観察され、一方、B細胞リンパ腫においてはp16遺伝子プロモーター領域に存在するCpG islandのDNAメチル化による発現抑制が観察された。これらB細胞株にメチル化阻害薬である5-aza dCを作用させたところ、p16遺伝子の発現量増加が観察された。さらに、71頭のイヌのリンパ腫症例群に関して予後解析を行ったところ、発生部位やWHO臨床サブステージといった既存の予後因子の他に、p16遺伝子の発現亢進が負の予後因子であることが明らかとなった。次に、薬剤耐性に関して検討したところ、薬剤感受性のリンパ腫細胞株ではABCB1遺伝子の発現量がきわめて少なく、そのプロモーター領域に存在するCpG islandがほぼ完全にメチル化されていた。一方、薬剤感受性細胞株ではABCB1遺伝子の発現量が多く、そのCpG islandは非メチル化状態であった。これら成果は、イヌのリンパ腫の病態にエピジェネティク制御が重要な役割を果たしていることを明らかにしたものであり、獣医腫瘍学に全く新しい展開がもたらすとともに、ヒトの臨床医学の発展にも貢献するものと考えられる。
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巻: (Epub ahead of print)
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