ラット角膜の上皮全層と実質を部分的に剥離した部分(直径3 mm)にブタ膀胱由来で無細胞化・滅菌化された材質を縫合すると、縫合部は次第に透明化し、約12週間目には肉眼的には判別できない程度の透明性を得た。次に、ラットと同様にウサギで角膜上皮全層と実質を部分的に剥離した部分(直径3~5 mm)に、ブタ膀胱由来材料を縫合した。縫合後3~7日後の組織学的検査では、角膜上皮細胞が縫合片の表面を覆うパターンと、縫合片の下面で角間実質欠損部表面を覆うパターンの2つが見られた。縫合後12週目以降の組織学的検査では角膜には上皮、実質、内皮の3層構造が認められた。また角膜の透明性は経時的に増加した。したがって今回用いたブタ膀胱由来材料を用いた時の角膜の修復のパターンとしては、角膜上皮下で角膜実質欠損部を縫合片が充填して角膜再生につながるパターンと、縫合片が角膜欠損部を覆いその下で上皮および実質が形成されるパターンの2つがあると思われた。しかし2週間を超えて観察予定のウサギの約半数で縫合片が縫合後3~4日で消失した。そこで、ウサギの上皮全層・部分的実質剥離モデルに上述の材料の縫合した後に結膜被覆術あるいは瞬膜被覆術を行うとその部分でも角膜上皮および実質の形成がみられた。瞬膜被覆術を行うと縫合片の観察ができないが、超音波生体顕微鏡を使用することで縫合片の存在は確認可能であった。以上より、角膜潰瘍に対して、角膜実質欠損部を充填するように今回用いた材質を縫合することは1つの治療法となる可能性があると思われた。しかし短期間で縫合片が消失する場合もあるため、瞬膜被覆術を、あるいは瘢痕の残存が許容可能な場合は瞬膜被覆術を組み合わせることも有用と思われた。
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