研究課題
本研究は、ヒトと共通の疾病が自然発症するイヌに着眼し、ヒト再生医療の実用化を円滑に進め得るトランスレーショナルリサーチの一つとして、幹細胞成長因子(SCF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などの造血系への分化を誘導するサイトカインの遺伝子をフィーダー細胞に導入し、それらをイヌの人工多能性幹細胞(iPS細胞)と共培養することにより、イヌiPS細胞から血液系細胞への分化誘導を効率的に行うことを目的としている。本研究年度では、イヌ造血サイトカイン遺伝子のクローニングおよびこれらの遺伝子によって発現したタンパク質の解析について検討し、以下の結果を得た。1.既報のイヌG-CSF遺伝子の塩基配列、あるいはSCFおよびfms-like tyrosine kinase 3 1igand(Flt3-L)遺伝子の細胞外領域の塩基配列をもとにプライマーを設計し、それぞれイヌT細胞、骨髄細胞、および末梢血単核球から抽出したcDNAをテンプレートとして、PCRにより目的のcDNAを増幅し、クローニングを行った。G-CSFのクローニングにより、606bpのcDNAが得られた。本cDNAの塩基配列は既報のそれと比べて2塩基の相違が認められた。SCFおよびFlt3-Lのクローニングにより、それぞれ573bpおよび555bpのcDNAが得られ、両cDNAの塩基配列は既報のそれらと全て一致していた。2.リポフェクタミンを用いて作製遺伝子をチャイニーズハムスター卵巣由来株であるCHO細胞に導入した。培養上清に含まれるG-CSFとSCFを用いて、イヌ造血幹細胞の増殖と骨髄細胞の成熟顆粒球への分化の促進、さらに、Flt3-Lを組み合わせることにより、イヌ顆粒球系前駆細胞の増殖および分化の促進が確認できた。
2: おおむね順調に進展している
今年度に予定していた研究計画の①イヌ造血サイトカイン遺伝子のクローニング、および②クローニングした遺伝子によって発現したタンパク質のサイトカイン活性の解析を概ね達成できたため。
今年度の当初の目標は概ね達成されたことから、引き続いて次年度には、以下の3項目について研究を推進する。1.イヌサイトカイン発現フィーダー細胞(株)の作製: 最近開発されたリソゾーム脱出能をもつ人工ベクターやウイルスベクターなどを用いて、作製したサイトカイン遺伝子発現ベクターをOP9細胞あるいはイヌ胎子由来ストローマ細胞に導入する。2.イヌサイトカイン遺伝子発現フィーダー細胞株を用いたiPS細胞から血液系細胞への迅速かつ効率的な分化誘導法の確立:イヌiPS細胞を浮遊培養して胚様体(EB)を形成させる。造血系への分化を誘導するサイトカイン遺伝子を導入したフィーダー細胞株とEB細胞を共培養することによって、接着分子によるシグナルと液性因子によるシグナルを効果的に発生させ、iPS細胞から血液系細胞への分化誘導を効率的に行う分化誘導法を確立する。3.iPS細胞由来血小板によるイヌ血小板減少症に対する細胞治療:iPS細胞由来血小板を用いて血小板減少症のイヌに細胞治療を行う。
iPS細胞の作製、および分化誘導細胞の性状解析には高額な抗体や試薬を必要とし、全体の研究費の約90%を消耗品費として計上する。また学会発表のための国内旅費、および学術雑誌投稿のための論文投稿料をその他費として計上する。
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http://www.vet.osakafu-u.ac.jp/cellE/cellE.html