研究課題
MALDI-MSは近年、生体高分子のみならず低分子化合物の超高感度迅速分析にも適用が検討され、その特性を生かしたメタボローム研究や分子イメージングへの応用が期待されている。しかし、イオン化の要となるマトリックスに関する研究は意外にも未開拓で、その分子論は未知である。特に生体低分子解析に重要な負イオンモード分析に適応した高機能高感度マトリックスの開発は急務である。本研究では、合理的かつ系統的な分子設計と有機合成による新規高機能有機マトリックスの開発を目指し、現時点で最も汎用されている9-アミノアクリジン(9AA)を評価基準として、その誘導体合成から研究を開始した。まずは9AAのアミノ基にアルキル基、アリール基、アルコキシカルボニル基等の置換基を導入し2級、3級アミノ基へと変換した化合物を20種類以上合成した。それらをマトリックスとして200種類の生体代謝小分子に対してMALDIMS測定を負イオンモードで行いそれらのイオン化能を評価した。その結果、アミノ基が3級の場合ほとんどイオン化能を示さなかったが、2級アルキル、2級アリール基ではイオン化能を示した。一方、2級でもカルバメートとするとまったくイオン化能を示さなかった。以上から、1級、2級アミノ基が必須であることが分かった。また、この結果はN-H基の存在が必須であることとなり、レーザーによる励起に際して当該結合がヘテロリティックに開裂しNの負イオンとなり対象サンプルのプロトンを引き抜く機構が示唆された。またアクリジン骨格をアントラセンやキノリンに変換した化合物も数種類合成したところ、N上の置換基を変換することで良好なイオン化能を示すことがわかり、アクリジンは必須でないことが分かった。さらにアントラセンおよびその部分還元体にアミノ基を結合させた化合物も合成した。
2: おおむね順調に進展している
新規マトリックスの合成に関してはおおむね順調に進んでいる。イオン化能の評価に関しては、アミノ酸関連分子に的を絞ることで評価が進んでいる。
新規マトリックスの合成を進めるとともに、UVスペクトルとイオン化能との相関も精査する。マトリックスは各種芳香族化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、アニリン誘導体、キノリン誘導体など)にアミンを搭載した化合物を主に合成する。評価対象はアミノ酸を主に用いる。
物品費(試薬、ガラス器具、汎用器具、汎用消耗品など)111万円旅費(研究打ち合わせ、学会発表など)15万円その他(器具修理、英文校正など)5万円計131万円マトリックスの物性測定に関して装置の不具合などで若干よていより遅れたため、H24年度未使用額が発生した。次年度には完了する予定である。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (14件) (うち招待講演 4件)
Tetrahedron
巻: 69 ページ: 1043-1049
10.1016/j.tet.2012.11.077
J. Pharm Sci.
巻: 102 ページ: 1008-1015
10.1002/jps.23442
Toxicology
巻: 305 ページ: 1-9
10.1016/j.tox.2012.12.019
Phytochemistry
巻: 84 ページ: 56-67
10.1016/j.phytochem.2012.08.001
Chem. Res. Toxicol.
巻: 25 ページ: 2253-2260
10.1021/tx300315h