研究課題
MALDI-MSは近年、生体高分子のみならず低分子化合物の超高感度迅速分析にも適用が検討され、その特性を生かしたメタボローム研究や質量分子イメージングへの応用が期待されている。しかし、イオン化の要となるマトリックスに関する研究は未開拓である。特に生体低分子解析に重要な負イオンモード分析に適応した高機能高感度マトリックスの開発は急務である。本研究では、合理的かつ系統的な分子設計と有機合成による新規高機能有機マトリックスの開発を目指し、現時点で最も汎用されている9-アミノアクリジ(9AA)を評価基準として、昨年に引き続き芳香族アミンの合成を行った。本年度は分析対象をアミノ酸およびその誘導体に絞り、マトリックスの芳香環の重要性について精査した。アクリジンをアントラセンに置き換えたところ、9-アミノアントラセンが9AAよりも高いイオン化能を示した。しかし9アミノアントラセンは物性として不安定であったので、部分還元を行ったアミノテトラヒドロアントラセンやアミノ基の置換位置が異なるアミノアントラセン、アミノアントラセンの二量体などを合成し、マトリックスとしての機能を調べたところ、いくつかの化合物で感度および適用範囲の広い優れたマトリックスを見出すことに成功した。測定したアミノ酸誘導体51種のうち50種が最高100 fmolオーダーの検出感度で分子イオンピークを見出すことができた。それらのUV吸収とイオン化能とはある程度の相関がみられた。また、アミノ基の1H-NMRの化学シフトとも相関がみられたことから、アミノ基の塩基性が強いことも重要であるとの示唆を得た。
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