研究概要 |
細胞膜リン脂質脂肪酸の多様性を理解するために、本年度は、リン脂質sn-1位の脂肪酸のリモリングの分子機構の解析を行った。脂肪酸リモデリングとは、ホスホリパーゼA1(PLA1)あるいはPLA2によってリン脂質のsn-1あるいはsn-2位の脂肪酸が分解され、リゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ(LPLAT)が脂肪酸を導入する反応である。これまでsn-2位の脂肪酸リモデリングを担う酵素群が数多く同定され、sn-2位のリモデリングが生体にとって重要な機能を発揮していることが明らかとなってきた。一方、sn-1に関してはホスファチジルイノシトール(PI)についてのみ一部、明らかとなっている。線虫において、細胞内型PLA1(ipla1)とLPLAT(acl-8, 9, 10)がPIのsn-1の脂肪酸リモデリングを担う。脊椎動物においては、acl-8, 9, 10のホモログであるlycatがPIのsn-1に脂肪酸を導入する。線虫ipla1の脊椎動物ホモログは3種類(iPLA1α, γ)存在する。まず、ヒトiPLA1をHeLa細胞に過剰発現させたが、1-アシル、2-アシルリゾリン脂質ともに変化は見られなかった。蓄積が認められない原因として、産生されたリゾリン脂質が速やかに再アシル化反応によって消去されているためであると考え、次にLPLAT阻害剤(CI-976)に着目した。細胞にCI-976を投与したところ、1-アシルだけでなく2-アシルリゾリン脂質(LPE, LPC, LPS, LPG, LPI)の顕著な蓄積が認められた。lycatのノックダウンでは、2-アシルリゾリン脂質の蓄積は認められなかった。CI-976投与時に見られた2-アシルリゾリン脂質の蓄積はiPLA1α, γのノックダウンにより抑制され、過剰発現により蓄積が増加した。本研究により、lycat以外にもsn-1に脂肪酸を導入するアシルトランスフェラーゼが存在すること、iPLA1α、γは細胞内において様々な種類の2-アシルリゾリン脂質の産生に関わることが示唆された。
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