本研究では、本来細胞質内には存在しないN-アセチルガラクトサミン転移酵素を核内に発現させることにより、O-GlcNAcを伸長させて安定な糖鎖に導き、どのタンパク質のどのアミノ酸残基がO-GlcNAc修飾を受けたかという履歴を、網羅的かつ正確に特定する新規手法の確立を目指した。特に、従来細胞内で修飾される糖鎖と厳密に区別ができるように、通常の細胞に発現していることのない、特殊な糖鎖構造に導くことを検討した。具体的には、3種類の可溶型N-アセチルガラクトサミン転移酵素をコードするcDNAにp53タンパク質の核移行シグナル及びMycタグ配列を付加し、発現ベクターpGACCSに組み込み、このプラスミドをHEK293細胞に導入し発現させた。これら糖転移酵素の作用を追跡するために、O-GlcNAc修飾したタンパク質として知られているヒストンに着目し、これらのタンパク質を精製し詳細な検討を行った。具体的には、糖転移酵素を導入した細胞からを酸抽出法によりヒストンを精製し、新たに見出したN-アセチルガラクトサミン特異的なフジレクチン(WJA)を用いて追跡を行った。WJAを用いたウエスタンブロッティングの結果から、O-GlcNAc修飾が既知の特にヒストンH2B及びH4において、糖転移酵素を発現させた細胞由来のバンドが濃く染色された。次にこれらのタンパク質からO-GlcNAc修飾部位の特定を目指して、ヒストンをトリプシンで処理後、WJAレクチンを用いたアフィニティカラムによる精製を行った。素通り画分、遅れて溶出される画分、結合し糖で溶出された画分についそれぞれ回収し、各フラクションをHPLCで分析しmock細胞由来のそれと比較したところ、O-GlcNAc修飾ペプチドと予想されるピークが得られた。このピークを回収し、MALDI-TOF質量分析計による解析を行った。
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