研究課題
プロテオグリカンはグリコサミノグリカン鎖によって修飾された糖タンパク質であり、その機能発現には糖鎖が重要である。プロテオグリカンの糖鎖修飾は主にゴルジ体で行われるため、ゴルジ体ストレス応答と呼ばれる品質管理機構によって厳格な制御を受けている可能性が高い。本研究は、プロテオグリカンの品質を維持する機構の存在とその仕組み、またシステムの動作不良が細胞や個体にどのような影響を与えるかについて理解することを目的としている。我々は、グリコサミノグリカン鎖の生合成に関与する複数の遺伝子のクローニングに成功しており,そのうちの一つにEXTL2 遺伝子がある。この遺伝子は、がん抑制遺伝子に分類され、グリコサミノグリカン鎖の生合成酵素遺伝子と高い相同性を示すことが明らかになっていたが、生体内での役割が解明されていなかった。そこで、EXTL2遺伝子欠損マウス(以下,ノックアウトマウス)を作製し機能解析を試みた。ノックアウトマウスは正常に発生し、寿命や生殖能力も野生型マウスと大差はなかったが、グリコサミノグリカン鎖の合成量が増加しており、EXTL2はグリコサミノグリカン鎖の生合成を負に制御する調節因子であることが判明した。この制御機構を調べたところ、EXTL2は合成中の糖鎖にN-アセチルグルコサミン残基を付加し、糖鎖伸長を一時停止させていることがわかった。これらの結果から、EXTL2はがプロテオグリカンの品質管理に働く可能性が示唆された。ゴルジ体においてプロテオグリカンの品質管理機構が存在する生物学的な理由は、分解されるべきプロテオグリカンが分泌されてしまうことが生体にとって不都合であるからだと考えられる。EXTL2ノックアウトマウスは、分解されるべきプロテオグリカンが蓄積し、病気になりやすい体質になっていることが予想されるので、現在、肝炎などをはじめとする疾患との関連を調べている。
2: おおむね順調に進展している
当初目標としていた、プロテオグリカンの品質を維持する機構の存在が明らかにでき、論文公表も行ったため。また、その品質管理機構の破綻が、実験的な肝炎発症後の肝再生に大きく影響することも分かりつつあるため。
EXTL2の個体レベルでの機能を明らかにするために、EXTL2 ノックアウトマウスに様々な負荷を与える。現在行っているのは、四塩化炭素で肝炎を誘導したEXTL2ノックアウトマウスの肝機能の回復速度を、トランスアミナーゼ活性を指標に野生型と比較している。まだ回数を増やさないといけないが今のところ、両マウスの回復速度に差が出ているので、四塩化炭素から発生するラジカルによる肝細胞の障害の程度が違うのか、回復期における肝再生の過程に違いがあるのかについて調べている。肝再生における違いは、肝細胞増殖因子に対する応答性の違いを反映する可能性が高い。肝細胞増殖因子による増殖シグナルはプロテオグリカンによって調節されることが知られているので、EXTL2 発現欠損によるプロテオグリカンの合成異常が肝細胞増殖因子によるシグナル伝達に与える影響について調べる。また、EXTL2を介したプロテオグリカンの分解が起こらない状態が、細胞にストレスを与えるのかどうか、あるいはストレスに対して脆弱な性質を細胞に賦与するかどうかについて細胞レベルで調べる。例えば、野生型およびノックアウトマウスから調製した胎仔線維芽細胞のストレス性タンパク質の発現量を調べて、各細胞のストレスレベルを比較する。さらに、小胞体ストレス誘導剤や酸化ストレス誘導剤、アミノ酸飢餓やグルコース飢餓を与えて、細胞生存率を調べ、EXTL2の発現欠損がストレスに対する感受性を高めるかどうかについて検討する
10万円程度の残額が次年度に繰り越されるが、これは本年度に出版された論文の掲載料の出金のために残しておいたものである。次年度は、現在行っている四塩化炭素で肝炎を誘導したEXTL2ノックアウトマウスの肝機能の回復に関わる研究成果を論文の形で公表できるように努め、計画的な研究費の使用を心掛けたい。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 備考 (1件)
J. Biol. Chem.
巻: 288 ページ: 9321-9333
10.1074/jbc.M112.416909
http://www.kobepharma-u.ac.jp/~biochem/