研究課題
本研究では、ラットやマウスなどの動物個体内において生体分子可視化ツールとして機能し、生命現象の解明や医用診断薬開発に繋がる近赤外蛍光プローブの開発を見据えた、近赤外蛍光に対応した「蛍光消光団」の開発を目的としている。近赤外蛍光プローブの開発には、近傍の近赤外蛍光団の蛍光を十分に消光可能な「消光団」が有用であるが、現在、市販されている近赤外蛍光を消光可能な「消光団」は生体内での安定性などに問題を抱えている。そのため、優れた消光団の開発は、近赤外蛍光プローブの開発研究の分野においてブレイクスルーとなりうる。平成25年度は平成24年度に引き続き、新たな近赤外蛍光消光団のデザインおよび有機合成を行った。動物個体内での蛍光イメージングにおいて、組織透過性および自家蛍光を考慮した場合、使用する励起波長は実用的には700 nm以上(同時に蛍光波長も700 nm以上となる)であることが望ましい。一方、現在使用されている近赤外蛍光消光団として「QSY-21」と「BHQ-3」が挙げられるが、「QSY-21」は700 nm以上の蛍光を消光させるには十分に長い波長の吸収スペクトルは有しておらず、一方、「BHQ-3」は750 nmもの長い波長の蛍光を消光させることはできるが、分子構造中のアゾ基の開裂に起因した生体内での不安定性が報告されている。このような状況下、本研究においては、生体内での安定性を考慮し、分子構造内にアゾ基を含まず、かつ700 nm以上に十分に長い吸収スペクトルを有する新たな消光団の開発を行った。その結果、新たな蛍光消光団の開発及びその合成法の確立に成功した。本蛍光消光団は、吸収極大波長を750 nm付近に持ち、実用的にも十分に長い吸収波長を示している。また、本研究成果は特許出願を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
平成25年度には、平成24年度に開発した蛍光消光団のプロトタイプを更に構造改変することによって、吸収極大波長を750 nm付近に持ち実用的にも十分に安定かつ長い吸収波長を示す蛍光消光団の開発に成功した。本消光団は、更なる分子構造の改変によって、水溶性などの調整にも成功しており、当初の研究計画の平成25年度の研究目標を十分に達成するものである。これら成果は特許出願も行っており、「(1)当初の計画以上に進展している」とさせて頂いた。
平成25年度は、研究計画通りに順調に進展したため、今後の推進方策としては、当初の計画通り変更なく推進していく。また、現在のところ、研究を遂行する上での問題等はない。
平成24年度及び平成25年度は、当初研究計画の分子設計によって順調に蛍光消光団の開発に成功したため、当初予想していた数ほどは化合物を合成する必要がなかったため、有機合成試薬および消耗品の購入が予想以上に少なく済み、「次年度使用額」が生じた。平成26年度は、投稿論文の作成や当初計画以上に動物実験などを行う予定であるため、特に生化学試薬が必要とされることが予想され、これらに使用していく予定である。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
Angewandte Chemie International Edition
巻: 52 ページ: 13028-13032
10.1002/anie.201305784
http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~taisha/