研究概要 |
遺伝子発現をエピジェネティックに制御する酵素の一つであるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)には、核に存在しヒストンを基質とするHDACのみならず、HDAC6のように細胞質に局在し微小管のα-チューブリンを基質とし微小管の安定化に寄与するHDAC、あるいは、HDAC3,8,9などのように細胞核と細胞質の両方に存在するHDACなどが見出されている。HDACは、広くタンパク質のアセチル化されたリシン残基を脱アセチル化酵素として、その多様な機能が注目されており、本研究は、HDACの細胞内局在性と機能発現との関連の解明に焦点を当て、細胞内局在性を有するHDAC阻害剤を設計・合成しHDACの機能解明に役立たせることを目的とする。今回、HDAC8に焦点を当てた。HDAC8は、最初核内に存在しコアヒストンに対して脱アセチル化能を有することが報告されたが、最近、平滑筋細胞では細胞質にも局在することがわかり、平滑筋細胞の収縮を制御する可能性が示唆されている。本年度は、クリックケミストリーの手法を用いることにより、HDAC8に選択性を有する阻害剤を見出すことが出来た(J.M.C., 2012)。一方、HDAC阻害剤に細胞内局所的な活性を持たせるためにはケージド化合物の手法を用いることとした。なお、ケージド化合物とは、光解除性の保護基で生理活性分子を保護し,一時的にその活性を失わせた分子のことである。既存のHDAC阻害剤の多くが活性官能基としてヒドロキサム酸構造を有することから、ヒドロキサム酸構造部分を光解除性保護基で保護した化合物を合成し、光照射により脱保護されHDAC阻害活性を示す化合物群の合成を検討中である。
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