研究概要 |
ダイオキシン(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin, TCDD) によって肝臓のロイコトリエンB4 (LTB4)が蓄積する可能性につき、より詳細な事実確認、並びに機構解明と毒性学的意義付けを目指して研究を行った。TCDDは摂餌量の低下を惹起することが古くから知られている。従って、TCDDによるLTB4増加に接餌量の低下が寄与する可能性もある。そこで、対照群とTCDD処理群に加え、摂餌量をTCDD群と同じに制限したpair-fed対照群を設けて3群間での比較検討を行った。ラット肝抽出物をUPLC-TOF-MSに付してメタボローム解析を実施した結果、LTB4はpair-fed対照群においても有意に増加したが、TCDD群においてはそれよりも遥かに顕著に増加した。従って、LTB4の増加は摂餌量の低下以外の要因が主に寄与することが判明した。 LTB4増加の機構について解析を行った結果、1)アラキドン酸をLTB4前駆体のLTA4に変換する5-lipoxygenaseの増加、並びに2)LTA4を別経路(LTC4生成)に導くLTC4 synthaseの発現抑制の2つが寄与することを見いだした。 LTB4は好中球を誘引し、それに高発現するmyeloperoxidase (MPO)から遊離される因子を介して細胞障害に関わると言われており、LTB4の増加はTCDD毒性に寄与する可能性がある。事実、TCDD処理ラット肝では、好中球集積によるとみられるMPOの有意な増加が認められ、LTB4増加とよく符合する結果が得られた。 TCDDは芳香族炭化水素受容体 (AhR)の活性化を通して、毒性を惹起するとされている。本研究の結果、TCDDの5-lipoxygenase誘導にはAhRが関与することが示唆され、この誘導は毒性に関与する可能性が考えられた。
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