汚損付着生物として知られているシロスジフジツボ、ムラサキイガイからRNAを抽出し、それを鋳型にcDNAを作成した。この内、シロスジフジツボおよびムラサキイガイにおいてretinoid X receptor (RXR)のDNA結合領域(DBD)配列の増幅に成功した。さらにDBD配列を基に3'RACE法により、DBD より 3'側に存在するリガンド結合領域(LBD)配列の解明にも成功した。明らかになった配列情報からアミノ酸配列を予測し、他動物種と比較を行った。その結果、ムラサキイガイRXR LBDはヒトと約80 %の相同性があることが確認された。また、巻貝類とは約90 %の相同性を有している事が確認され、ムラサキイガイRXRのアミノ酸配列は巻貝類RXRに近い配列である可能性が示唆された。一方で、シロスジフジツボRXR LBDはヒト、巻貝類のどちらに対しても約60 %の相同性しか有していなかった。また、他の生物種のRXRに対しても同程度の相同性であり、データベース上にはシロスジフジツボRXRと特に相同性が高い配列は認められなかった。次にシロスジフジツボおよびムラサキイガイのRXR LBD と酵母の転写因子である GAL4のDBDとを融合したキメラタンパク質を発現させるプラスミドを作成してレポーターアッセイを行ったところ、どちらのRXRも脊椎動物の内因性アゴニストである9-cisレチノイン酸には反応しなかった。一方でRXRアゴニスト作用を有するトリフェニルスズに対しては、ムラサキイガイRXRで反応が認められた。以上の結果から、汚損付着生物のRXRはリガンド応答性が脊椎動物のものとは大きく異なる可能性が示唆された。
|