化学療法を受けているがん患者や脳梗塞の既往がある高齢者では、持続性・難治性吃逆(しゃっくり)の発症頻度が高く、患者のQOLを著しく低下させるが、その治療法は確立されていない。柿蔕は、柿蔕湯あるいは柿蔕単味で柿蔕液として、民間薬としてばかりでなく医療現場でも吃逆の治療に使われているが、調製の煩雑さから抗精神病薬や抗痙攣薬等が適応外で使用されている例が多く、より安全で有効性の高い治療薬の開発が望まれる。しかし、吃逆はマウス・ラットでは観察されず、基礎研究が困難であることから、柿蔕の作用メカニズムも有効成分も未解明で、臨床現場における症例が貴重な情報源となると考えられる。そこで、柿蔕液の調製や服用法に差が有る数施設を対象に、吃逆発症患者に対する使用実態調査を行った。 調査が完了した症例数が充分ではないものの、化学療法を施行している患者において、服用する柿蔕量が多く濃度が高いと有効性が高い傾向が見られ、副作用は特に認められなかった。また、柿蔕液服用後、原因が除かれないためか再発することがあっても、効果は速やかであることから、漢方薬を基にしながらも頓用での服用が適していると推察された。このことからも、動物実験における活性評価の指標として、脳内神経伝達物質が適すると考えられた。 柿蔕液経口投与後のラット脳脊髄液中神経伝達物質の測定を行ったところ、対照群と比べて、Arg・Glu・GABA濃度に差が認められなかったが、短時間で一過性のGlyの低下やAspの低下傾向に加え、ドパミンの代謝物であるDOPACとHVA濃度の上昇が確認された。今後、臨床現場で行った調査結果から吃逆の発症原因と考えられた薬剤が本研究で見出された要因に対して及ぼす影響を参考に、吃逆を改善する柿蔕成分の探索を行うとともに、吃逆治療薬として適した柿の品種や採取時期についても検討する予定である。
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