研究課題/領域番号 |
24659060
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
鹿志毛 信広 福岡大学, 薬学部, 教授 (80185751)
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研究分担者 |
佐藤 朝光 福岡大学, 薬学部, 助教 (90369025)
入江 圭一 福岡大学, 加齢脳科学研究所, 研究員 (50509669)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ゲノムDNA / 乳酸菌 / 抗炎症作用 / toll-like receptor 9 / NF-kB |
研究概要 |
本研究の目的は、乳酸菌のゲノムDNAが代表的な抗炎症薬であるNSAIDsとは異なる作用機構で抗炎症作用を示すことを実証し、がんの予防・治療を目的とした長期服用が可能な抗炎症薬を創出することにある。本年度は、乳酸菌ゲノムDNAの抗炎症作用に、細菌のDNAを特異的に認識する受容体TLR9および炎症誘発因子の発現を誘導する転写因子NF-kBが関与するか検討した。 1.乳酸菌ゲノムDNAの抗炎症作用にはTLR9が必要である RNAi法を用いて、TLR9の発現を抑制した腸管上皮由来Caco-2細胞を作製した。そして、H2O2と乳酸菌ゲノムDNAを48時間曝露し、炎症の指標であるIL-8の遊離量をELISAで測定した結果、TLR9の発現抑制が乳酸菌ゲノムDNAのIL-8遊離抑制作用を消失させた。 2. 乳酸菌ゲノムDNAはTLR9を介してNF-kBの核内移行を抑制する Caco-2細胞へのH2O2の曝露により、NF-kBは細胞質から核内に移行した。そして、乳酸菌ゲノムDNAの曝露は、H2O2によるNF-kBの核内移行を遅延させ、移行するNF-kB量を減少させた。また、TLR9の発現を抑制した細胞では、乳酸菌ゲノムDNAによるNF-kBの核内移行抑制作用は消失した。 本年度の研究結果から、乳酸菌ゲノムDNAは上皮細胞内に侵入後、細胞質内のTLR9に結合し、NF-kBの核内移行を抑制することで、IL-8の遊離を抑制することが明らかとなった。乳酸菌ゲノムDNAが作用を発揮するためには、TLR9が局在する細胞質に侵入する必要がある。乳酸菌ゲノムDNA は炎症を誘発した状態のCaco-2細胞にのみ侵入するため、NSAIDsのように非炎症組織において副作用を示す可能性は低い。よって、本年度の研究により、乳酸菌ゲノムDNAがNSAIDsとは異なる作用機構で抗炎症作用を示す可能性を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的を達成するためには、「乳酸菌ゲノムDNAの抗炎症作用機構を解明する」、「炎症性腸疾患を初めとする慢性炎症疾患マウスに対する乳酸菌ゲノムDNAの治療効果を検討する」、「乳酸菌ゲノムDNAに含まれる抗炎症作用を持つ塩基配列を決定する」の3項目を実施する必要がある。本年度の研究により、それぞれの項目について、以下の結果を得ることができたため、おおむね順調に進展していると判断した。 「乳酸菌ゲノムDNAの抗炎症作用機構を解明する」:乳酸菌ゲノムDNAは細胞内に侵入後、TLR9に結合し、NF-kBの核内移行を抑制することで、H2O2によるIL-8の遊離を抑制することを明らかにした。 「炎症性腸疾患を初めとする慢性炎症疾患マウスに対する乳酸菌ゲノムDNAの治療効果を検討する」:乳酸菌ゲノムDNAの治療効果を検討する前段階として、炎症性腸疾患モデルマウスを作製することに成功した。具体的には、6週齢の雄性C57BL/6Nマウスに5%デキストラン硫酸ナトリウムを7日間自由飲水させることで、体重減少、下痢、血便、大腸の短縮、腸管におけるミエロペルオキシダーゼ活性の増大、炎症性サイトカインの発現誘導を観察することができた。 「乳酸菌ゲノムDNAに含まれる抗炎症作用を持つ塩基配列を決定する」:乳酸菌ゲノムDNAライブラリーを作製し、乳酸菌ゲノムDNA内の抗炎症作用を持つ24個の部分配列を特定することができた(DDBJ登録済み、公開予定日2014年3月1日、Accession numbers:AB780864-AB780887)。しかし、抗炎症作用を持つ短い配列の決定には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、「炎症性腸疾患を初めとする慢性炎症疾患マウスに対する乳酸菌ゲノムDNAの治療効果を検討する」、「乳酸菌ゲノムDNAに含まれる抗炎症作用を持つ塩基配列を決定する」の2項目を実施する。 「炎症性腸疾患を初めとする慢性炎症疾患マウスに対する乳酸菌ゲノムDNAの治療効果を検討する」:本年度の研究成果により作製した炎症性腸疾患モデルマウスに乳酸菌ゲノムを経口投与し、大腸炎が改善されるか検討する。また、ジブチルスズクロライドの静脈内投与により慢性膵炎を、四塩化炭素の腹腔内投与により慢性肝炎を発症するモデルマウスを作製した後、乳酸菌ゲノムDNAの治療効果を検討する。 「乳酸菌ゲノムDNAに含まれる抗炎症作用を持つ塩基配列を決定する」:これまでに、10bp以下の塩基配列が免疫機能を活性化するという報告があるので、本年度の研究により特定した乳酸菌ゲノムDNA内の抗炎症作用を持つ24個の部分配列(200 - 500bp)から、より低分子の抗炎症作用を持つ塩基配列を特定する。具体的には、24個の部分配列に高頻度に含まれる配列を探索し、その配列を合成した後、Caco-2細胞を用いてH2O2によるIL-8遊離抑制作用を評価することで、抗炎症作用を持つ短い塩基配列を決定する。さらに、この人工合成可能な塩基配列を炎症性腸疾患モデルマウスに経口投与し、大腸炎が改善されるか検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の直接経費として、消耗品1,100千円を使用する予定である。DSSなど慢性炎症を誘発させるための生化学的研究試薬に200千円を、マウスの各臓器からのRNA抽出や抗炎症作用を持つ配列を特定するためのELISAキットなどに必要な分子生物学的研究試薬に200千円を、細胞培養などに必要な試薬に200千円、器具に200千円を試算している。さらに、慢性炎症疾患モデルマウスの作製および治療効果の検討に必要な実験動物の購入に300千円が必要である。その他、研究成果発表用の国内旅費として150千円を、外国語論文の校閲費や印刷費などに150千円を、人件費・謝金などに100千円を試算している。
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