研究課題/領域番号 |
24659065
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 征三 東北大学, 薬学研究科(研究院), 分野研究員 (00011693)
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研究分担者 |
藤原 正子 東北大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (10466534)
高橋 信行 東北大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (40588456)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | NMR / メタボロミクス / 生活習慣病 / 慢性腎臓病 / 乳酸 / TCA回路 / 補酵素 |
研究概要 |
24年度研究成果: 「意義・重要性」我々はメタボロミクスによって、末期腎不全患者の血中にビオチンおよびその代謝物が異常蓄積していることを発見した。ビオチンはエネルギー・糖・脂質代謝反応の補酵素であるが、糖・脂質代謝異常を基礎にもつ腎臓患者にとって慢性的な高濃度のビオチン代謝物の蓄積は、エピジェネティクな変化をもたらすことが予想される。水溶性ビタミンであるビオチンの代謝・動態と慢性疾患との関係を解明するために、本研究では慢性腎臓病におけるビオチン・エピジェネティクスを指向し、その基盤となるNMRメタボロミクス法を新規に開発することを目的とした。 「成果」透析合併症である痙攣の緩和を目的としてビオチンを投与したところ、著効を見た。ビオチンはTCA回路入り口に位置する補酵素であり、エネルギー代謝の偏りを是正する役割が示唆される。血漿中のビオチンをELISA法にて定量したところ、透析患者はビオチンが蓄積していることが判明した。腎機能の全廃した患者がビオチンだけでなくその代謝物も体内に蓄制させ、代謝物が活性のあるビオチンを抑制していることが示唆された。ELISA測定によるビオチンが残尿のある患者には少ない事も発見した。このことは腎機能とビオチン蓄積の関係があることが示唆している。 ビオチン代謝に関連する情報を抽出するNMR法を開発することを試みた。 今年度は特に糖代謝について実績があった。つまり1HNMRスペクトル解析において原疾患によって乳酸、ピルビン酸、ケトン体および糖原性アミノ酸のプロファイルが異なることを発見した。ビオチンエピジェネティクスとの関連をさらに追求する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・透析患者の合併症にビオチンが著効をみたことは、患者がエネルギー代謝の異常を抱えていることを意味した。ビオチンはTCA回路の入り口の補酵素として働いている。一方でエライザ法でビオチン類が患者に蓄積している事を発見している、これは未変化体ビオチンだけでなくビオチン代謝物がエライザ法でも同じく検出され、代謝物の蓄積が問題となることが示唆された。蓄積量と腎機能の関係も判明し、新たなビオチン代謝と腎不全の進行度の関連が浮かび上がった。 ・ビオチンを服用した患者に、糖代謝異常を持つ糖尿病者に関連の代謝物プロファイルの変化を認め、ビオチンが糖代謝にも深く関連することを示唆した。 ・NMRスペクトルによる定量分析で、乳酸、アラニンなど主要な代謝物プロファイルの違いを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
慢性的にビオチンとその代謝物に曝されていることでエピジェネティックな変化をもたらすことが予想されるので、今後はさらに代謝物プロファイリングをNMRで行う事でこれを検討する。 透析歴とビオチン類の蓄積の関係を明らかにし、ビオチンの腎症への役割を考察する。 これまで水溶性ビタミンとして毒性を疑われなかったビオチンであるが、難分解性構造をもつことから新たな代謝的意味あいがあることを、我々の研究によって提起出来ると思われる。未変化体ビオチンとビオチン代謝物を区別して同定定量することで、いすれが腎症の増悪因子として役割を持つか明確にしたい。新規尿毒素としてビオチンが働くか否かについて確証を得ることを目的とする。新規尿毒素であればクレアチニンに代わるマーカーとして有効である可能性も考えられる。
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次年度の研究費の使用計画 |
・腎機能とビオチン代謝物蓄積の関係があることが示唆されたので、LC/MSなどの測定法で分子種同定と定量をすることでこれを解明したい。透析治療前後の血漿で測定し、廃液においても行う。廃液は除タンパク処理をしたものと同等であるので、むしろ良い結果が期待される。 ・エネルギー代謝を抽出するNMR法を開発したい。31P NMR測定によってATP/AMP比を検出する。廃液において観察することで廃液中にATPなどの排出を確認したい。透析廃液中のATPは今まで観測されたことはない。 ・ビオチンを服用する患者の糖・脂質パラメータを追跡することでビオチンの糖・脂質代謝への効果を調べる。
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