研究課題
胎生期における細胞の移動は正常な組織を構築する上で非常に重要である。大脳皮質には、興奮性と抑制性神経細胞が存在し、それぞれ異なる部位で生じた後、皮質内をそれぞれ法線及び接線方向に移動して6層から成る大脳皮質を形成している。最近、神経細胞の移動を制御する分子の解析が進んできたが、未だ不明な点も多く残されている。本研究はこれまでとは異なる方法で神経細胞の移動に関与する分子を見出し、大脳皮質における神経細胞の移動を解明することを目的としている。既に、転写因子Ptf1aを興奮性神経細胞に導入すると、細胞の移動が法線方向から接線方向へと変化することを見出しており、この細胞移動の変化を緒とし、抑制性神経細胞の接線方向への細胞移動を制御する分子機構や遺伝子カスケードを明らかにする。初年度は、Ptf1aを胎生期の大脳皮質の興奮性神経細胞に導入し、Ptf1aを強制発現した細胞を単離し、トータルRNAを精製してマイクロアレイ解析を行った。またGAD67-EGFPマウス及びvGAT-Venusマウスの胎児脳よりGAD67陽性及びvGAT陽性細胞も単離し、同様にトータルRNAを精製してマイクロアレイ解析を行った。最終的に転写因子Ptf1aにより誘導され、神経細胞の移動に関与する分子の候補を複数見出した。次の段階で行うshRNAを用いたin vitroでの解析を効率よく進める為に更なる標的遺伝子の絞り込みを継続中である。
2: おおむね順調に進展している
1) Ptf1a等の発現ベクター又はコントロールベクターと共に蛍光タンパク質GFPを発現するベクターを胎児脳(E14.5)に子宮内エレクトロポレーション法で導入後、胎児脳(E17.5-18.5)を取り出し、蛍光実体顕微鏡下で蛍光タンパク質の陽性(+)部位を摘出した。また抑制性神経細胞で蛍光タンパク質を発現するGAD67-EGFP及びvGAT-Venusマウスの胎児脳(E17.5-18.5)からも大脳皮質を摘出した。これらの摘出した脳組織をタンパク分解酵素パパインにより処理し、得られた細胞懸濁液を細胞ソーター (FACSAria II, Becton Dickinson) を用いて蛍光タンパク質を発現する細胞を単離した。単離した少量の細胞からのRNA調製は、TRIzol試薬とスピンカラムを併用した方法により行い、マイクロアレイ解析に必要な量のトータルRNAが得られた。2)調製したトータルRNAはThe Ambion WT Expression Kit (Life Tech.)を使用してマイクロアレイ解析に用いるプローブを作成した。Ptf1a陽性細胞、GAD67-EGFP陽性細胞及びvGAT-Venus陽性細胞において発現する遺伝子の解析はMouse Gene 1.0 ST Array (Affymetrix)により行った。3)マイクロアレイ解析は個々の遺伝子の発現をサンプルごとに比較し、抑制性神経細胞とPtf1aで誘導され、コントロールで発現されない遺伝子、またはコントロールのみで発現する遺伝子を候補として絞り、接線方向への移動に関与する候補遺伝子の検索を行った。しかし予想より多くの候補遺伝子が見出され、次の段階で行うshRNAを用いたin vitroでの解析を効率よく進める為に更なる標的遺伝子の絞り込みを進めている。
1) Ptf1aの直接の標的遺伝子の同定を行うためにクロマチン沈降法(ChIP)を用いる。胎児脳より細胞を単離し、ゲノムDNAとPtf1aタンパク質の固定を行い、超音波でゲノムDNAを切断し、抗FLAG抗体とProtein Gマグネットビーズを用いてPtf1a-ゲノムDNA複合体を濃縮する。マイクロアレイの解析より得た候補遺伝子の発現調節領域内でPtf1aの結合配列(CANNTG)を含む領域を検索し、PCRにより同定した標的遺伝子の転写制御領域へのPtf1aの結合を確認する。2)同定した遺伝子が接線方向への細胞移動に必要な遺伝子である事を、標的遺伝子のshRNA発現ベクターと同時にPtf1aを胎児脳に導入し、細胞移動の挙動変化を指標にして確認する。標的遺伝子の抑制に用いるshRNAの配列は、The RNAi Consortium (Broad Institute, US)より公開されているものを利用し、pSuperRetroベクター(H1プロモーター)に組み込んで作成する。最終的には同定した遺伝子のshRNAに抵抗を持つ分子を作製し、細胞移動の変化が回復するのかを指標にし、同定を進める。3)マイクロアレイ解析で同定したPtf1aの標的遺伝子の解析にはLattice assayを用いて行い、レンチウイルス等により遺伝子やshRNAを神経細胞に導入して細胞移動に与える影響を解析する。4)これまでに同定した遺伝子のKOやcKOマウスが有れば入手する。存在しない場合は、IKMCよりES 細胞を入手し、当大学の動物実験施設でキメラマウスを作製してKOマウスを得る。作製したKOマウスは、まず胎生期において大脳皮質の構造を調べ、生後も解析可能なら行動異常等を含め網羅的に解析を行う。cKOマウスに関してはEmx1-Creマウス等と交差し、KOマウスと同様に解析を行う。
現有の設備で実施可能であるので、設備備品費は計上していない。実験用動物に関しては、子宮内エレクトロポレーション法にて遺伝子を胎児の脳に導入する為、多数の妊娠マウス(1匹7,000円程度)が必要とされる。それ故に実験用動物の購入に多額の費用を計上している。さらにノックアウトマウスの作成において、ES細胞をIKMCから購入する費用を輸送費も含めて計上している。またES細胞の購入を最終年度で行うのは、同時に作製出来るキメラマウスの数等に限度が有るためである。さらに、分子生物学的手法に必要とされる試薬や、細胞培養を用いる血清等は一般に大変高価であるが、実験遂行する為に出来るだけ節約をした額を計上している。また学会などでの発表、さらには情報収集のための経費を計上すると共に、ノックアウトマウスをはじめとする種々のマウスの維持管理のための補助が必要であり、研究補助の人員の雇用を前提とし、謝金を計上している。また、研究終了時には論文として公表するので、そのための費用も計上している。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (8件)
Skeletal Muscle
巻: 3(1):5 ページ: 該当なし
10.1186/2044-5040-3-5
Cerebral Cortex
巻: 23(6) ページ: 1410-1423
10.1093/cercor/bhs123