本研究課題では起電性ナトリウム(Na+)重炭酸イオン(HCO3-)共輸送体(NBCe1-B)の異種性強制発現系とともに、NBCe1-B内因性発現系として非常に高いHCO3-輸送能をもつと考えられるウシ耳下腺腺房細胞(BPA細胞)を使用し、生体の広範な組織や細胞間で認められるNBCe1-B機能活性の多様性を作り出す分子機構解明へ向けて研究を進めてきた。HEK293細胞にウシ耳下腺由来NBCe1-Bを一過性に強制発現させた実験系では、細胞内pHそれ自身は実験条件で採用した範囲内ではNBCe1-B機能に影響しないが、細胞内Mg2+による抑制機構に影響する可能性が示唆された。これらの研究結果はNBCe1-Bが細胞内Mg2+依存性を作り出すメカ二ズム解明に重要なヒントを与えるだけでなく、細胞内pH変動がNBCe1-Bの機能多様性を作り出す一因子として働いている可能性を示唆している。一方、内因性発現系としてBPA細胞を用いた研究においては、生理的な発現環境におけるNBCe1-B機能のK+チャネル活性に起因する膜電位変動を介したフィードバック調節機構の可能性の有無について検討を行った。その結果、無刺激時のBPA細胞には(1)細胞外pH環境の変動に連動して変化するようなK+電流が存在し、その電流は膜電位維持に関与する可能性を有すること、(2)少なくとも生理的膜電位付近において、細胞内Na+濃度増加により誘発されるような大きなK+電流が存在する可能性は低いこと、などが示唆された。また、細胞内Mg2+恒常性への関与が想定されているTRPM6/7様非選択的陽イオンチャネル機能を介したNBCe1-B機能調節の可能性に関して、予備的ではあるがBPA細胞に存在するTRPM6/7様チャネルがin vivoの細胞内環境においても活性を有している可能性を少なくとも否定しない結果が得られた。これら内因性発現するNBCe1-Bがさらされると考えられる局所環境変動に注目して得られた知見は共輸送体機能調節の多様性解明に重要な手掛かりになると考えられる。
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