現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、血管壁の慢性炎症が動脈硬化の主体であると認識され、免疫細胞と内皮細胞の相互作用を中心に研究が進められてきたが、血管壁の大半を占める平滑筋細胞の関与を抜きには病態の正しい理解は得られないと考えられる。申請者は、プロスタグランディンE受容体EP4シグナルによる平滑筋細胞の形質転換が、血管壁の炎症を慢性的に持続させ動脈硬化に至る、という新たな視点に立った仮説を検証するために新規実験系 「免疫‐内皮‐平滑筋細胞からなる三次元多層細胞」 を構築することを目的としている。初年度として、血管壁の弾性線維の構築と評価を確立することができた。また、平面培養に比べて、生体内の血管に近い分化度を有する平滑筋細胞の表現型を維持することができた。これらの結果は、現在論文投稿中(ATVB, 2013, May)である。当初に予定していた、内皮細胞の検討には至っておらず、計画を完全には実施できなかったが、血管の大部分を占め、動脈硬化の温床となる平滑筋細胞と細胞外基質についての条件検討が終了できたことより、本研究はおおむね順調に実施できていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の結果を踏まえ、適切な条件で培養された積層細胞に内皮細胞、単球細胞を組み入れた3次元細胞体を構築し、各因子の動態を薬物によって評価する。 1.サイトカインや流速に対する内皮細胞の活性化の検討:動脈硬化において重要なサイトカイン(TNFalpha, IL-1)や酸化LDLによって内皮細胞が活性化するかどうかをICAM1, E-selectinなどの発現を通して検討する。内皮細胞はCD31をマーカーとして免疫沈降またはFACSで採取する。2.単球の内皮細胞への接着と内皮細胞下層への浸潤の検討:単球に蛍光色素を標識し、サイトカイン(TNFalpha, IL-1)や酸化LDLで内皮細胞を活性化させたときの細胞の接着能の亢進と、単球の内皮細胞下層への浸潤を、固定した三次元多層細胞の断面で免疫組織染色を行って検討する。3.EP4刺激により形質転換した平滑筋細胞層が内皮細胞を活性化するかを検討:EP4を過大発現させた平滑筋細胞を三次元多層細胞に用いて内皮細胞の活性化をICAM1, MCP1, E-selectinをマーカーとして検討する。さらに単球が内皮細胞に接着し、内皮細胞下層へ浸潤するかどうかを検討する。4.EP4刺激により形質転換した平滑筋細胞層が脂質の沈着を促進するかを検討:同様に平滑筋細胞のEP4シグナルを活性化させ、培養液中にLDLを添加し、平滑筋層へのLDLの沈着がコントロールに比べて亢進するかを検討する。EP4刺激によるbiglycan, versican, decorinの産生も計測する。5.EP4刺激が平滑筋層でのマクロファージの活性化を亢進するかを検討:EP4刺激が単球を内皮細胞下へ浸潤させることが確認できれば、浸潤した単球が活性化型のマクロファージに変化するかどうかを検討する。
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