研究課題/領域番号 |
24659106
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田口 徹 名古屋大学, 環境医学研究所, 助教 (90464156)
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キーワード | 筋・筋膜性疼痛 / 侵害受容器 / 痛み / 下腿筋膜 / 感覚センサー / 脊髄 / Peripherin / CGRP |
研究概要 |
筋膜は第2の骨格とも言われ、円滑で協調的な身体動作に不可欠な支持組織である。一方、支持機能以外の生理・解剖学的役割は確立されておらず、筋膜はいわば忘れ去られた組織であった。本研究ではこれまでに、1)筋膜における侵害受容線維の分布様式を明らかにし、2)筋膜への痛み刺激に応じる細径線維侵害受容器(Aδ線維、C線維)を同定し、3)筋膜からの末梢侵害入力の脊髄投射様式を明らかにしており、筋膜がこれまでに考えられてきたような単なる支持組織ではなく、侵害受容を担う感覚センサー組織として、生体においてよりダイナミックな役割を担うことを示してきた。H25年度は、カルシトニン遺伝子関連ぺプチド、およびPeripherin陽性侵害受容線維のより詳細な分布を調べ、これらのマーカーが下腿筋膜において共局在することを確認した。現在、病態モデル(遅発性筋痛/炎症性疼痛)を用いて痛覚過敏時の侵害受容線維の分布の変化を調べている。また、遅発性筋痛の痛覚過敏に重要な機械感作物質である神経成長因子のmRNA発現は、筋のみならず、筋膜においても有意に増大することがわかった。これは遅発性筋痛の痛みの発生源が筋だけでなく、筋膜にもあることを示唆するものである。 近年、筋膜がアクティブな収縮能を有するという興味深い仮説が報告された。我々はこの報告に基づき、下腿筋膜が平滑筋様に数十分のオーダーでゆっくりと収縮する現象を確認した。次に、この収縮能が筋膜に分布する血管平滑筋に由来する可能性を確かめるため、トマトレクチンにより下腿筋膜の血管分布を標識した。またα-smooth muscle actin抗体を用いて、下腿筋膜内の血管平滑筋の分布を調べたところ、下腿筋膜表層に比較的大きな血管の密な分布が観察され、その血管の走行パターンから下腿筋膜の長軸方向への収縮が下腿筋膜表層に分布する血管平滑筋に起因する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
侵害受容を担う感覚センサー組織としての筋膜の新しい基礎医学的役割を明らかにし、これに関する論文発表、学会発表(招待講演を含む)、また著書の執筆も行った。おおむね順調に成果が出ている。痛覚過敏における筋膜組織の重要性や、また、当初の計画にはなかったが、アクティブな収縮要素としての筋膜の新しい役割についても明らかにしつつある。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度は、引き続き、痛覚過敏モデルを用いた病態時の筋膜侵害受容の変化やそのメカニズムの解明を中心に進める。また、当初は計画していなかったが、アクティブな収縮エレメントとしての筋膜の新しい役割についても明らかにし、忘れ去られた筋膜組織の新しい基礎医学的役割の確立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
試薬や消耗品等の発注に際し、複数の業者から見積をとることを徹底したため、 予定していた予算に若干の余裕が生じた。 次年度に持ち越す予算は、当初は実験計画に入っていなかった筋膜の収縮能に関する検討を行うために使用する。
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