研究課題/領域番号 |
24659111
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
松本 明郎 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60437308)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | Sーニトロシル化 / 一酸化窒素 / 翻訳後修飾 / イメージング / GFP |
研究概要 |
一酸化窒素(Nitric Oxide : NO)が生理活性を示す機序であるS-ニトロシル化反応(SNO化 )が細胞内で生じる過程を,時空間的に解析可能とするリアルタイムイメージング手法を開発することを目的として,研究を開始した. 具体的には,SNO化に反応して蛍光強度が変化する緑色蛍光蛋白質(GFP)を開発することを目標としている. まず,野生型では蛍光を示さないGFPのアミノ酸222番近傍にSNO化モチーフを導入することにより,SNO化により蛍光を発する様になるか検討をおこなった.理論的に考えられた3通りのSNO化モチーフを作製しSNO化感受性について検討をおこなった.反応性を示すものの,その程度は小さく,効率的なSNO化測定を行なうためにはいずれも不十分であることがわかった. 次に,SNO化モチーフのうちシステインのみを導入したプラスミドに対して,導入範囲を限ってランダム変異導入によりアミノ酸置換を行なった.このプラスミドをもちいて大腸菌を形質転換し,蛍光強度の低いものを中心に約10,000個のコロニーを選択し,96-wellプレートに整理した.SNO化処理を施した際の蛍光強度の増大を指標にして,感受性を示すものを選択した.さらに,それぞれのサンプルをクローン化したのち,SNO感受性を示すクローンからプラスミドを抽出し,GFPの遺伝子配列を解析し導入された遺伝子変異の確認を行なった.この結果,30種類程度のSNO感受性を引き起こす遺伝子変異パターンが得られ,パターン間での変異の重複やSNO化に対する感受性の強弱により,どのアミノ酸置換がSNO化感受性を規定するのに重要であるかを,アミノ酸配列並びに結晶構造データを用いた立体構造上の位置情報をもとにして,詳細な解析を実施しているところである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は,以下の2つのテーマを予定していた. 1: 変異体の作成とタンパク質発現,2:クローンの選別とSNO特異性スクリーニング 1,2ともに計画通りに実施することができた.2は平板寒天プレート上で大腸菌が発する蛍光強度を目視しながら作業を実施できる様にするという新たな作業技術開発を必要としたが,ほぼ問題なく装置の開発と作製を行なうことができた.1では,理論的に設計したSNOモチーフを導入した変異体を作製し,大腸菌内部で発現させた後,SNOに対する反応性を蛍光強度の変化から検討した.これらのクローンは,SNO化試薬による蛍光強度変化をしめすものの,その感受性はあまり高くなく,実用的なものではなかった.2では,SNO化部位近傍に対してのみランダム変異導入法を用いて遺伝子変異を導入し,大腸菌へ導入・発現させた.これらのクローンを平板寒天培地上で選択することを試みたが,蛍光強度の変化を経時的に定量的に測定することが難しく,実現することは出来なかった.そのため,一旦平板寒天培地から自家蛍光が弱い菌株を選択的に採取し,96ウェルプレートを用いて整理した.採取した株総数は約1万個であった.96ウェルプレート上に整理された株各々に対してSNO化試薬を添加し,反応性に蛍光強度が増大するものを選別した.100個程度の株がSNO処理により蛍光強度が増大した.これらの株を改めてクローン化したのち,再度SNO処理により蛍光強度が増大することを確認したものについて,プラスミドDNAを抽出・精製し,DNAシークエンスを確認した.これらのクローンから得られた遺伝子配列を蛍光強度の増大幅と比較整理し,SNO感受性GFPを作製するための至適アミノ酸配列を現在検討中である. 以上の成果は,ほぼ計画した通りであるため,おおむね順調に進展していると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,「より高感度・高特異性を有するSNO感受性GFPの至適化」を目標に研究を実施する. 前年のスクリーニング結果から,SNO感受性を示すアミノ酸配列パターンを見いだし,それらの共通項や立体構造上の位置関係を検討することから,よりSNO特異性・感受性の高いGFP変異体を生み出せないか検討する.すなわち,高感度(SNO化処理に伴う蛍光強度変化が大きい),高特異性(SNO化処理にのみ特異的に反応する)を有するアミノ酸配列を推測し,その変異を実際に導入したGFPを作製・発現させる.SNO感受性・特異性を詳細に検討する他,培養系動物細胞(血管内皮細胞など)に導入し,内因性・外因性のNO供給を変化させることにより生じるSNO化修飾の変動を,蛍光顕微鏡下などにおいて観察出来るかについても検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は,制度改正により共用設備としての備品購入が可能になったため,蛍光プレートリーダーの購入費用が申請時の予算額よりも少なくなった.また,蛍光マイクロプレート(400円/枚)も洗浄方法を工夫することにより繰り返し使用することができる様になったため,消耗品費についても予算額を下回る支出となった. 平成25年度予算は,高感度・高特異性を実現するための遺伝子変異を作製するためのプライマーの作製費用や変異導入のための試薬,SNO感受性評価のためのプラスチックプレートなどの消耗品の購入や,変異導入の確認のためDNAシークエンスを受託解析を利用して行なうための費用を計上した. 平成24年度で残額が生じたため,本研究課題をさらに発展させるために,SNO化感受性GFPを動物由来の細胞で発現させ検討をおこなうことを追加で計画した.そのための動物飼育・細胞培養などにかかる費用も計上した. 成果発表を薬理学会(平成26年3月)等にて行なうことも予定しており,学会参加費用ならびに論文作製費用も計上した.
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