研究課題
本研究は、アミノ酸濃度情報をリン酸化シグナルに変換してmTOR系による細胞内代謝調節機構とリンクさせる、細胞膜型ロイシン受容体分子を同定しその機能を明らかにすることを目的としている。これまで当該分野で想定されてきた細胞内アミノ酸センサーとは異なる新しい概念の細胞膜受容体を提唱するものである。平成24年度は、細胞膜型受容体と細胞内センサーを発現している2種類の細胞株間で、細胞膜タンパク質の網羅的な比較定量プロテオミクス解析を実施した。細胞膜タンパク質をビオチン標識試薬でラベルし、ビオチン-アビジン系を利用したアフィニティー精製により回収した後、トリプシンでペプチド化したサンプルを用いてiTRAQ法により解析した。その結果、細胞膜型受容体を発現している細胞の細胞膜において特に高い発現を示す候補因子をいくつか見出した。現在、得られた候補因子について個別にRNA干渉法によるノックダウンをおこないアミノ酸シグナル系における機能解析を実施している。また並行して、サンプル調製法と質量分析計による測定法の改善にも取り組んだ。細胞膜画分調製に改良を加えて膜貫通型タンパク質に特化した方法を開発し、特に同定が困難とされている複数回膜貫通型タンパク質の同定数を大幅に増やすことに成功した。次年度はこの手法を用いた比較定量プロテオミクス解析を実施して、新たに候補因子の絞り込みをおこなう予定である。さらに、iTRAQ法による比較定量リン酸化プロテオミクス解析を実施して、アミノ酸刺激に応答してリン酸化が上昇する約400種類のタンパク質を見出すことができた。受容体分子の同定後は、この手法により受容体下流の細胞内シグナル伝達系の網羅的な解析に取り組む予定である。
2: おおむね順調に進展している
細胞膜型アミノ酸受容体の分子同定を目的として、細胞膜タンパク質の比較定量プロテオミクスを計画通りに実施し、細胞膜型ロイシン受容体を発現している細胞において特に高発現しているいくつかの因子を見出すことができた。現在、個別にノックダウン実験をおこなってそれら候補因子の機能評価を進めている。その中には、実際にノックダウンによってアミノ酸刺激によるmTORの活性化が抑制される因子も見出されているが、その因子自身は膜タンパク質ではなく足場タンパク質であるため、その結合因子の探索から受容体の同定へつなげるアプローチも検討している。また、ビオチン化ラベルした細胞膜画分を用いたiTRAQ法によるプロテオミクスの実験手技については、細胞質タンパク質も相当数同定される点など依然として改良の余地があったため、膜タンパク質の同定に特化したサンプル調製法と質量分析計による測定法の開発にも並行して取り組んだ。その結果、膜タンパク質の同定数を大幅に伸ばすことにも成功している。今後、この改良した方法を基にさらなる改善を加えながら有望な候補因子の絞り込みを進める。また、当初は次年度に実施を計画していた比較定量リン酸化プロテオミクス解析にも既に着手することができた。細胞内センサーを発現しているHeLaS3細胞をモデルに用いて、細胞内に取り込まれたロイシン刺激依存的な細胞内リン酸化の網羅的変動を明らかにする比較定量リン酸化プロテオミクスの方法論を確立した。一方で、細胞膜型ロイシン受容体に特異的なアゴニストを基にした光反応性プローブの合成には至っておらず、次年度も引き続き取り組んでいく予定である。以上のように、当初の計画とは多少の前後が有るものの、全体としておおむね順調に進展しているものと考える。
次年度は、以下に述べる手法を並行させて細胞膜型アミノ酸受容体の同定に継続して取り組む。今年度見出した因子の結合因子を質量分析法により網羅的に同定して受容体の単離を試みる他、改良を加えた細胞膜タンパク質の比較定量プロテオミクスによって、受容体候補因子の絞り込みを再度おこなう。また細胞膜型受容体特異的なアゴニストの分子構造を基に光反応性プローブをデザイン・合成し、光ラベル化技術を利用したケミカルバイオロジーの手法による分子同定にも取り組む。このプローブはロイシン受容体と特異的に結合する部分、光ラベルするためのジアジリン環を持つ光活性基部分、ラベルした蛋白質を回収するためのビオチン部分を持つ。この化合物でロイシン受容体を特異的に標識して、質量分析計により蛋白質を同定する。上記の複数の手法により見出した候補因子について、siRNAによる遺伝子ノックダウンを行い、ロイシン添加によって誘導されるmTOR下流のp70S6Kのリン酸化を指標にした機能解析をもって細胞膜ロイシン受容体の分子同定を完了する。受容体の分子同定後は、比較定量リン酸化プロテオミクスにより細胞膜ロイシン受容体のmTOR系へのリンクを網羅的に明らかにする。細胞膜型ロイシン受容体遺伝子ノックダウン細胞と対照細胞をロイシンで刺激し、iTRAQ法による比較定量リン酸化プロテオミクス解析を実施する。この際、受容体のノックダウンによってロイシン刺激に応答しなくなるものを受容体下流のシグナル経路の候補因子とする。各因子は個別にsiRNAによる遺伝子ノックダウンをおこなって、ロイシンが引き起こすmTOR活性化への影響からその機能的重要性を検証する。さらに、他のmTORシグナル系因子との関連を明らかにするため、細胞膜ロイシン受容体とmTOR系の既知因子との同時ノックダウンを実施する。
該当なし
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