研究課題
造血幹細胞においては細胞表面マーカー発現を指標とした高度な純化が可能であるが、近年、機能・特性における不均一性が指摘され、さらなる純化法の技術革新が望まれている。本研究では、特定のシグナル分子のリン酸化状態を蛍光によって生細胞中で可視化する技術「細胞内シグナル応答性プローブ」を造血幹細胞研究に応用し、従来の方法ではさらなる分画が不可能であった細胞集団を特定の刺激に対するシグナル応答性により細分画し、生細胞として回収することで機能・特性評価までを可能にする新たな細胞分画法を確立することを目的とする。提案する技術の原理証明が主題であるが、造血幹細胞をシグナル応答性により分画し、特性評価までを行なって新たな亜分画の提案を可能にすることが究極の目的である。本年度は特にモデル細胞におけるシグナル応答性の評価系の整備を行った。被験シグナルとしてSDF-1刺激によるCXCR4シグナルを選択肢、至適化をすすめた。シグナル強度を人為的に変化させることでシグナル応答性プローブの反応性をvalidateできると考え、レトロウイルスベクターシステムを構築し、野生型レセプターおよびgain-of-function 型レセプターを被験細胞に過剰発現する系を確立した。C57BL/6Jマウス骨髄から造血幹・前駆細胞を分取し、ベクターで遺伝子導入、蛍光マーカーを指標に遺伝子陽性細胞をソートにより得ることができた。SDF-1刺激後に細胞を固定後、シグナル分子のモデルとしてリン酸化Erkを特異的抗体で染色しフローサイトメトリーにて解析した。結果、gain-of-functionを裏付けるシグナル強度の変化が観察され、本研究課題の目的に適うモデル細胞、モデルシグナルの構築を確認した。
2: おおむね順調に進展している
初年度は本研究課題の目的達成に必須のモデル構築に注力した。分担研究者の片山はさらに自身の有するシグナル応答性プローブの改良に注力した。モデル構築に関しては、申請者所属の研究室における研究の進捗に伴い、シグナル強度を段階的に変化させる系の応用が可能となったため、レトロウイルスベクターの構築を行い、遺伝子導入を行うことで至適モデルを構築することができた。いったんモデルが構築できれば、片山の準備するプローブに合わせて同様の手法にてシグナル強度、シグナル伝達のキネティクスを自在に変化させることが可能になる。このことから次年度に向けての準備が進んだ終と評価し、全体研究は「概ね順調に進んでいる」との自己評価とした。
プローブ導入造血幹細胞の活性評価:前年度よりのプローブ導入法の至適化をさらに進める。特に毒性の評価を厳密に行うため、移植によって造血再構築能をプローブ非導入細胞との比較において検討する。ヒト造血幹・前駆細胞としては、CD34陽性CD38陰性細胞集団を用いて、移植はNOGマウスをレシピエントとして評価する。マウス造血幹細胞では、幹細胞活性の評価の標準法であるLy5.1/Ly5.2 congenicマウスシステムを用いて、プローブ導入後にも未処理造血幹細胞に遜色ない活性が保たれるような条件を確立する。ぞ造血幹細胞の分画:プローブの導入法にある程度目処が付いた時点より、実際の造血幹細胞を用いてプローブ導入、サイトカイン刺激、フローサイトメトリー解析およびソーティングの至適化を開始する。細胞株を用いた前年度の検討を参考に、プローブ導入後の刺激開始のタイミング、解析・ソーティングの開始時期、サイトカイン濃度等をヒト造血幹・前駆細胞とマウス造血幹細胞とでそれぞれ至適化する。分画造血幹細胞の特性・機能評価:リン酸化の有無、強度を指標に分画した細胞をソーティングし、遺伝子発現プロファイル、in vitro colony assay、移植による特性および機能の評価を行い、分画に用いたシグナル応答性の差異が特性においてもまた機能の上でも造血幹細胞を異なる画分に分別しうるかの検証を行う。リン酸化シグナルと特性・機能との関連づけ:計画どおりに新たな造血幹細胞の亜分画が同定されれば、分画の基となったシグナル応答性の差異が何故観察される造血幹細胞活性の差異へと結びつくのかの検討を行う。
平成24年度において本研究の遂行に必要な物品は大方調達済みであり、次年度においては研究の進捗にあわせて不足分の消耗品を調達する予定である。分担研究者の片山においては、プローブの合成に係る費用へと調達し、申請者においてはサイトカイン、実験動物が主な出資用途となる。
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