TRIC-A欠損マウスに対してβアドレナリン受容体刺激薬であるイソプロテレノール(Iso)を浸透圧ポンプにて14日間の持続刺激を行うと、心臓線維化が顕著に観察された。このことから本研究では、TRIC-A欠損マウスにおけるIso誘発性心臓線維化の機序を明らかにすることを目的とした。 14日間のIso持続刺激の間、テールカフ法により心拍数及び血圧を測定したところIso投与2日目において顕著な徐脈及び低血圧が観察された。また、Iso負荷したTRIC-A欠損マウスの中に約半数程テールカフ測定中に突然死を引き起こす個体が観察された。このことから心臓における異常の存在が示唆された。次に心臓における異常を組織学的に観察するためHE染色及びマッソントリクローム染色を行ったところ、TRIC-A欠損心臓において顕著な線維化が観察された。線維化の原因として①線維芽細胞の機能亢進、②心筋細胞死の亢進及び③マクロファージの関与の可能性が考えられる。①について各遺伝子型のマウスより線維芽細胞を単離・培養し、TRIC-Aの発現について検討したところ、タンパクレベルで検出されなかったことから線維芽細胞機能の亢進の可能性は低いことが示唆された。また、②については血中心筋トロポニンT濃度やエバンスブルー細胞膜透過性実験の結果から、Iso負荷したTRIC-A欠損心臓において早期に心筋細胞死が亢進していることが示唆された。この心筋細胞死は形態学的観察からミトコンドリアの崩壊により引き起こされることが明らかとなった。 以上のことから、Iso誘発性心筋線維化には少なくとも心筋細胞死の亢進が関与していることが示唆された。マクロファージの関与については今後の研究課題である。
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