真核生物の細胞膜においてリン脂質は非対称に維持されている.このリン脂質の非対称的な分布は,ホスファチジルセリン(PS)などのアミノリン脂質を細胞質側に輸送する酵素であるフリッパーゼにより維持されていると考えられている.一方,アポトーシスをおこした細胞ではリン脂質の非対称的な分布が崩壊し,PSが細胞の表面に露出することにより食細胞に貪食される.本研究では,ヒト1倍体細胞を用いたスクリーニング法 (Haploid genetic screen)により,細胞膜におけるフリッパーゼ活性の責任タンパク質としてATP11CおよびCDC50Aを同定した.ATP11Cは細胞膜において強いフリッパーゼ活性を示し,アポトーシスの際にカスパーゼにより切断され不活性化した.カスパーゼにより切断されないATP11C変異体を発現した細胞は,アポトーシスの際にPSを露出せずマクロファージに貪食されなかった.一方,CDC50Aを欠損した細胞は細胞膜におけるフリッパーゼ活性がみられず,アポトーシスを起こすことなく細胞の表面にPSを露出しマクロファージに貪食された.従って,細胞膜におけるフリッパーゼの活性制御がPSの細胞の表面への露出および貪食に重要であることが明らかになった.
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