研究課題
① ZF-MIWI2の設計からトランスジェニックマウスの作製:二種類のLine-1レトロトランスポゾン-TfタイプとAタイプ-の転写調節領域に存在する塩基配列から、メチル化修飾が可能なCpG配列を多く含み、なおかつ、高アフィニティーで結合しうるzinc fingerタンパクを設計できる18塩基を選択し、それぞれに結合するzinc fingerの設計をおこない、ES細胞を用いて、塩基配列特異的な結合を確認した。さらに、これら二つの人工設計zinc fingerにMIWI2を融合したタンパクに、核移行シグナルとFLAGタグを付加した遺伝子を構築し、胎仔期精巣に特異的に発現するMILI遺伝子のプロモーターを利用し、ZF-MIWI2のトランスジェニックマウスを作製した。そのトランスジェニックマウスにおいて、ZF-MIWI2が発現しているかどうかを抗FLAG抗体により確認した。② ZF-MIWI2のDNAメチル化能についての検討:MILI欠損マウスとZF-MIWI2トランスジェニックマウスを交配することにより、MILIを欠損しているためにpiRNAは存在しないが、ZF-MIWI2が胎生期の雄性生殖細胞において発現するマウスを作製した。このマウスにおいてLine-1遺伝子にDNAメチル化が生じるかどうかの解析をおこなったところ、実際にDNAメチル化が誘導されていることが確認できた。また、抗FLAG抗体を用いたクロマチン免疫沈降実験をおこない、ZF-MIWI2がLine-1遺伝子のプロモーター領域に存在ことも見いだした。さらに、このマウスでは、MILI欠損マウスとは異なり、精子形成が一部で回復していることがわかった。
1: 当初の計画以上に進展している
研究実施の概要に記載したとおり、年度当初に予定していた研究をほぼすべて遂行することができた。また、Line-1レトロトランスポゾン遺伝子のDNAメチル化導入を目標にしていたが、MILI欠損状態であっても、一部において精子形成がおこなわれる、という、予想以上の発見をおこなうことができた。このことから、計画以上に進展していると判断したい。
前年度にひきつづき、人工デザインZF-MIWI2タンパクによるDNAメチル化導入法の開発とその利用についての研究をおこなう。ZF-MIWI2が、MILI欠損状態においてpiRNA非依存的にLine-1遺伝子にDNAメチル化を誘導できたので、Line-1遺伝子における、DNAメチル化に関与するタンパクの解析をおこなう。DNAのde novoメチル化には、Dnmt3aとDnmt3Lという二つのタンパクが必要であるとされているので、ZF-MIWI2がこれらのタンパクと細胞内で複合体を形成しているかどうかをしらべる。また、ZF-MIWI2にFLAGタグを付加してあるので、抗FLAG抗体を用いて免疫沈降をおこない、ZF-MIWI2と結合するタンパクの質量分析による網羅的な解析を試みる。一方、Dnmt3L欠損マウスでは、レトロトランスポゾン遺伝子のDNAメチル化は生じないが、抑制的なヒストン修飾は生じることを見いだしていることから、ZF-MIWI2は、最初にDNAのメチル化を引き起こすのではなく、その前の段階として、抑制的なヒストン修飾を生じさせる可能性もあると考えている。そこで、ZF-MIWI2がどのようなヒストン修飾を惹起させるかを、クロマチン免疫沈降法などによって明らかにする。また、DNAのメチル化が周囲にどのようにして拡がっていくかの解析をおこなう。また、ZF-MIWI2によって精子形成が一部回復したので、それによって産生された雄性生殖細胞が受精能力を持っているかどうかを明らかにする。
マウスの飼育、分子生物学的および生化学的解析のための試薬購入、といった消耗品の購入にあてる。
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