インフルエンザウイルスがもつRNAポリメラーゼは、宿主mRNAからキャップ構造を含むRNA断片を切り出し、これをプライマーとしてRNA合成に利用することで、ウイルスmRNAにキャップ構造をもたらす。この活性の発現には、基質認識に伴う酵素の構造変化が重要と考えられている。昨年度の研究では、質量分析フットプリント法を用いて、キャップ化RNAの結合により酵素上の表面露出が変化する領域を見出した。本年度は以下の研究成果を得た。 1.質量分析フットプリント法によるタンパク質構造解析:昨年度に実験した酵素「そのまま」と「キャップ化RNAを結合させたもの」に加え、「キャップアナログ(RNAなし)を結合させたもの」を調製し、3者を比較することで、より詳細な構造変化の解析を試みた。その結果、キャップアナログの結合のみで表面露出が低下するペプチドを見出した。一次構造の機能マップから、この領域は切断活性の発現に伴い構造が変化する可能性が示唆される。 2.リバースジェネティクスによる検証:上記にて見出した領域の酵素活性における役割を検証するために、293T細胞にてウイルスポリメラーゼを再構築するレポーターアッセイを行った。その結果、領域内のアミノ酸残基の置換変異によって酵素活性が著しく低下したことから、本酵素の機能に重要な領域であることが示された。 3.構造変化を阻害する化合物の同定:昨年度に作製した小規模ライブラリーをスクリーニングし、構造変化を阻害する2種の天然化合物(β-RubromycinとFluvirucin B1)を見出した。これらによる酵素阻害活性を検証した結果、キャップ依存的なRNA切断反応を強く阻害することが示された。 本研究にて得られた以上の結果は、「酵素特有の構造変化を指標として酵素反応の阻害剤を探索する」という化合物探索ストラテジーの有効性を強く示唆する。
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